受け継がれるもの ファッションに携わる多くの人々の心の中に「本物」を遺したVAN

2017年10月28日

メンズファッションの教科書シリーズ vol.10 定番品の教科書 春夏編 The Standard (Gakken Mook Fashion Text Series)

昭和53年のVANの倒産は大きな衝撃を与えました。

以前から予兆はあったものの、親しく馴染んできたブランドの消滅は残念なものでした。

VANが遺した物は数多くあります。直営店方式によるダイレクトマーケティング手法の導入。問屋、デパートを通さず雑誌媒体を活用して直接消費者に訴えかける販売方法を導入したのは服飾業界ではVANが最初でした。「直接売ろうと思えば出来る」ことをVANが示しました。

スニーカー、スイングトップ、トレーナーなどの商品名もVANの命名によるものです。アメリカで「そのトレーナー(調教師)ください」と言っても妙な顔をされるのがオチです。

VANを語る上で忘れてはいけないのが「ノベルティ」です。いわゆる「おまけ」のことであり、このおまけがまたVANは洒落ていたのです。マドラスのボタンダウンシャツを購入すると大きな洗濯バサミが、そのほか対象商品と季節によって石鹸、コップ、エプロンなど、意表をつくも、どれも秀逸なデザインが好評でした。今では多くのメーカーがノベルティを用意しております。

電化製品にまであやかり商法が出現したのもVANの影響力でした。アイビーボーイ(テープレコーダー)、アイビーカドニカ(トランジスターラジオ)、アイビードライヤーなど、どんなドライヤーなのでしょうか。

ウィンドウショッピングの楽しさを教えてくれたのもVANでした。季節やキャンペーンによって内容が変わるものの、外から眺めるVANショップの店頭のディスプレイには、ただマネキンに服を着せるだけではない「この服は、こういう場面で着用して欲しい」というリコメンドを含んだドラマがありました。服の周りの小道具にまで本物にこだわり、VANの社会人アメフトチーム「VANGUARDS」の傷だらけのヘルメットが飾られていたり、時にはフォーミュラカーのハンドル(どこから持ってきたの??)だったり。服を買う楽しみもさることながら、お店に行くことが楽しいということを40年以上も前に教えてくれたのです。

文化事業をはじめたのもVANは早かったです。VAN本社1階の、元々は社内行事や展示ブースにしようと作った空間を99席、99円の入場料で提供するVAN99ホールとし、地元貢献、文化貢献のため広く開放したのもVANでした。

そして、ファッションに携わる多くの人々の心の中に「本物」を遺したのもVANでした。

その顕著な例が「ユニクロ」であります。ユニクロと言えばフリースというイメージですが、それ以外のベーシックな商品、例えばカジュアルシャツ、きれいめシャツなどの柄やディテール、サイズ感からステッチの幅までVANのものとよく似ています。

また、ベーシックチノにしても、VANのコットンパンツとシルエットがよく似ています。素材は現代風に工夫が施されており機能的ですが、いまVANのコットンパンツにユニクロのカジュアルシャツを合わせても全く違和感なく収まります。

恐らく、経営者はかなりVANの影響を受けてきたのだろうと勝手に想像していたところ、柳井正さんが自ら、当時の山口市内の高校生で初めてVANのボタンダウンを着ていたであろうことを述懐されておられました。

しっかり受け継がれていることが嬉しくもあり、VANと同じディテールのボタンダウンがVANよりもはるかに求め易い価格で手に入ることがさらに嬉しいと思うのは、私だけでしょうか。