ドラマ「西郷どん」から学ぶ「征韓論」とは?
今年(2018年)のNHK大河ドラマである「西郷どん」が始まり、人気を集めています。
大河ドラマは普通のドラマとは楽しみ方が少し異なります。先の読めないストーリーを期待する普通のドラマとは異なり、大河ドラマでは物語(歴史)の結末が分かっているため、多くの視聴者は、あの歴史的場面や登場人物がどのように描かれるのか、という期待感を持って大河ドラマを楽しんでいます。そのため、歴史を知れば知るほど楽しめるのが大河ドラマです。しかし、逆にこだわりが強くなり「こんなはずじゃない」とドラマの描かれ方にがっかりしてしまう可能性もありますが…。
今回のドラマの主役であり、明治維新の立役者である西郷隆盛は、「征韓論」をめぐる対立によって明治政府を辞職しています。この征韓論とはどういった考え方なのでしょうか。詳しく見ていきたいと思います。
1.征韓論とは?
征韓論とは、鎖国政策を取る朝鮮を武力を用いて開国させようとする考え方で、明治時代の前期に議論され、西郷隆盛や板垣退助らによって主張されました。しかし国内の政策を重視する木戸孝允や大久保利通は征韓論に反対し、明治政府内での対立は決定的になりました。では、なぜこの時代に征韓論という考え方が出てきたのでしょうか?
明治維新によって近代化の道を進み始めた日本ですが、列強に植民地にされる危険性が排除されたわけではありません。明治政府は、列強はどこから日本に攻めてくるのかを分析した結果、日本の目と鼻の先にある朝鮮半島から攻めてくる可能性が高いと判断しました。
もしロシアなどの列強が朝鮮半島を支配したら、朝鮮に前線基地を作り、そこを拠点に植民地を獲得しようとしてきます。そうなった場合、朝鮮半島に近い日本も植民地の対象になります。西郷は、日本が列強に植民地されないためにはどこの国よりも早く朝鮮半島に進出して、列強が朝鮮半島に侵入してこないようにする必要があると考え、征韓論を主張しました。このあたりの部分は「日露戦争の奇跡とは?」で詳しく説明させて頂いたので、併せて読んで頂けると幸いです。
2.岩倉使節団とは
しかし大久保や木戸は征韓論に反対します。その理由は、大久保や木戸は岩倉使節団としてヨーロッパ各国の文明を直接視察し、ヨーロッパの文明レベルに驚愕し、日本の後進性を痛感したからです。
1871(明治4年)年、廃藩置県を断行して中央集権体制を進めた明治新政府は、海外視察と条約改正の交渉を目的として、岩倉具視を全権大使とする使節団を派遣します。条約改正の交渉とは、幕末時代に結ばれた不平等条約(領事裁判権・関税の撤廃など)を解消することを目的とするものです。これを岩倉使節団といい、メンバーには木戸孝允、大久保利通・伊藤博文など豪華メンバーが含まれています。
使節団はアメリカやヨーロッパ各国を訪問し、政治制度や経済の発展状況などの視察しました。大久保らは、日本との文明レベルの差を痛感し、条約改正の交渉(外交)よりも、国内体制を整えてヨーロッパの文明に追いつくことが先決であると考え、国内の政治や経済を充実させるべきという考えに至り、2年後の1873(明治6年)年に帰国します。
4.「明治6年の政変」の背景
その間、西郷隆盛や板垣退助らを中心とする留守政府は、出発前の使節団との約束を守らず、学制(1872年)や徴兵制(1873年)といった改革を断行するとともに、外交面では「征韓論」を主張し、西郷らの朝鮮への派遣も決まっていました。西郷らには、新政府になり身分を失った武士(不平士族)の不満を解消しようという思惑もあったようです。ここでも兵士の失業問題という側面が浮かび上がってきます。詳しくは「信長の革新性④なぜ豊臣秀吉は朝鮮出兵をしたのか?」をご覧ください。
明治政府は内政重視派の大久保らと、征韓論を主張する外政重視派の西郷らによって対立することになります。帰国した大久保は国内の改革が先決であるとして、西郷の朝鮮派遣を阻止します。これを受けて西郷は明治政府を下野しました(明治6年の政変)。
5.西南戦争と自由民権運動
征韓論が受け入れられず明治政府を辞職した西郷と板垣ですが、板垣は自由民権運動を展開し、国会開設の機運を高めることになります。西郷は鹿児島で不平士族を束ねて西南戦争を起こしますが、明治政府に敗れて自害しました。「征韓論」とは明治時代の前期から後期に移行させるきっかけとなった議論でした。
大久保は、西南戦争で西郷が自害したとの一報を受けて泣き崩れたそうです。大久保は薩摩藩出身で、小さなころから西郷に可愛がられていました。政治に対する思想が違ったとしても、大久保は西郷に対する畏敬の念を持ち続けていました。西郷は大の写真嫌いで有名です。大久保は岩倉使節団でサンフランシスコに滞在中、西郷に使節団の写真を添えた手紙を送っています。西郷は返信を送り、「醜体を極まる、もう写真を取るのはやめなさい」と書いています。このやり取りから、言いたいことを遠慮なく言える仲の良さが伝わってきます。
大河ドラマでは、征韓論をめぐるシリアスなシーンや、西郷と大久保の関係がどのように描かれるのか、今から楽しみに待ちたいと思います。
中央公論新社
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