私たちに身近な性別~生まれてから年少まで~

たまひよ 赤ちゃんのしあわせ名前事典〈2016~2017年版〉

生活に欠かせない「性別」という存在

ある入力フォームにて。氏名を入力、フリガナ入力、性別を選択、都道府県を選択・・・・・・。ちょっとしたプレゼント応募、街角やインターネット、利用者登録、大学や専門学校の出席届、さらにはパスポートなどの身分証までと、生活のすみずみにまで性別は私たちの身近にあります。女の子なら料理くらい簡単でしょ?、女ならちょっとは愛想よくしなきゃ嫌われるよ、男らしくしなさい、男なら泣くんじゃない、など日常的に使われる文句にもわかるように、生まれた「性別らしさ」を求められることは皆さん体験したことがあるのではないでしょうか。このように生活する手段だけでなく、私たちの意識の中にも性別は刷り込まれています。今回はいろんなケースを見ながら、私たちの生活に「性別」がどう影響しているのか、見ていきましょう。

Scene「おめでとうございます。元気な女の子ですよ」

ある2組の異性愛夫婦がいました。どちらも赤ちゃんがもうすぐ生まれるようです。友人や両親に「男の子と女の子、どっちなの?」と聞かれますが、2組とも主治医に性別を聞いていません。それを伝えると、今度は「男の子と女の子、どっちがいいの?」と聞かれました。2組とも「健康で元気に生まれてきてくれるなら、どっちでも構わないよ」と答えました。名前もどちらが生まれてきてもいいように女の子の名前と男の子の名前を両方準備し始めています。さて、2組が授かったのはそれぞれ女の子と男の子でした。国内出産なので14日以内に本格的に考えなくてはなりません。2組の夫婦は一生懸命子どもの将来について考えます。

「女の子だから、みんなに愛されてほしい。明るい子になってほしい」と願い女の子の親となった夫婦は話し合い、陽菜ちゃんと名付けることにしました。一方、男の子の親となった夫婦は「男の子だったら、自分の可能性を最大限に広げてほしい」と考え、「大翔」という名前を付けました。

生れてから、必要不可欠な「性別」というもの

私たちは生れてから、命をまっとうするまで、そしてまっとうしてからも性別と無関係ではいられません。生まれる前に、既に「性別は聞きますか?」と医者に問われるでしょうし、「男の子か女の子かどっちかわかっているの」と家族や友人に聞かれます。誕生した瞬間、助産師さんや看護師さん、産科医さんに「元気な女の子ですよ」「元気な男の子ですよ」と言われるのは一般的な出来事でしょう。

そして成長するにつれて性別で分けられたり、区別されたり、環境もその性別「らしさ」を求めてきます。生活するにあたり仕事や家庭での生活にも「性別」で役割や対応が代わってきます。今回は、産まれてからすぐ必要となる「名づけ」や「名前」について見ていってみましょう。

漢字にも「女の子らしさ」と「男の子らしさ」がある?

筆者の学生時代の知人に、とても古風かつ今でもよく使用されていて素敵な読み方の名前の方がいます。漢字表記も素敵。しかし、よく授業中、男性の名前に間違われていました。なぜなら、男の子によく使用される「男らしい名前の漢字」だったからです。つまり女性にはあまり使用しない漢字表記だったため、男女混合の名簿では、男の子と読み間違えられてしまっていました。

近年でも男の子、女の子に使われる漢字、というものはあります。女の子に多く使用される漢字では、「結」「愛」「菜」などが挙げられます。また「心」という漢字も近年増加傾向にあるようです。一方男の子の名前の漢字で多いものは、「大」「太」「翔」などです。

名づけに見る「性別」

このように名前には漢字ひとつをとってみても「男の子らしさ」「女の子らしさ」が存在しています。名前にも「女の子らしさ」「男の子らしさ」という傾向が見られます。「名前」というものひとつをとってみても私たちの生活には「性別」は欠かせません。

男の子の名前には「才能を生かして大きく羽ばたく積極的な男の子像」が現れることが多く、また女の子の名前には「美しく愛される受け身の女の子像」に繋がる命名が多い傾向にあるようです。ただし1996年ごろからは、女の子の名前にも「人生を自分で切り開く未来像を描く親が増えたのか、女児の名前に幾分変化がみえる」ようです。例えば、「「未来」「七海」が人気を得るように」なるなど、少しの変化が見られるようになっています。「子どもにどのような暮らしをしてもらいたいか」という1995年の調査では男女ともに、女の子には「家族や周りの人たちと円満に楽しく暮す(表記ママ)」が6割近いなど強く求めています(男性57.7%、女性57.8%)

一方、男の子には「社会的な地位を得る」「経済的に豊かな生活をする」「人間性豊かな生活をする」「社会に貢献する」「個性や才能を生かした生活をする」(「特にない」「無回答」)の他の項目すべてで、女の子よりも期待しています。

さて、2014年における明治安田生命のランキングに限ってみれば、「陽」という文字は2014年ランキングでは3位「陽向」4位「陽太」10位「朝陽」と男女ともに人気のようです。また男の子の名前1位の「蓮」という漢字は「花蓮」など女の子にもつける傾向のある漢字ですので、少しずつ名前の「男らしさ、女らしさ」そのものも変化していっているのかもしれません。(注2

名前はその人にとってアイデンティティのひとつ

親に様々な願いや希望を含めてもらいつけてもらった名前は、その後ずっと私たちの生活に密着し、自分を形成する大切なもの(アイデンティティ)となります。ある人にとって、自分の名前がとても嫌だと思うことがあるでしょう。例えば一時的な性の揺らぎを抱えた人や性同一性障害の人が「心の性」に合わない名前を自分の意志とは関係なく「嫌だ」と思ってしまうこともあると思います。

ある知人が、ジェンダーの授業中討論で嫌な思いをしたことから、講師に対して「そんなにジェンダーにこだわるなら(女性らしい)名前を変えればいい」という愚痴を筆者にしたことがあります。他方ある性同一性障害のタレントがその後女性として生きるための女性的な名前を親に新たに付けてもらったというエピソードもあります。

名前はその人のアイデンティティの一つであり、私たちの多くが一生その名前で生活する大切なものでもあります。そしてその名前を嫌だと思うかそのままの名前で生活していくかは本人が決めることです。「女性らしい名前」「男性らしい名前」がいいと思う人もそれが嫌だと思う人も存在します。ですので、「女性らしい」「男性らしい」ということよりも、「その人らしい」ということを尊重していく社会になれば、「女性らしさ」「男性らしさ」を大切にしたい人や、反対にこだわらない人など多くの人が生活しやすくなるのかもしれません。

注釈

注1)名前は明治生命の名前ランキングを参考にしました。

注2) ちなみに今回Scene1では、明治安田生命が毎年行っている調査で2005年ほどから「大翔」という名前が多く1位を占めていたこと、「翔」という文字が1989年頃からも男の子の名前の1位になっていたこともあり、今回は「大翔」という名前を例に挙げました。2011年ほどから男の子の名前として人気であり最新の2014年の調査では1位の「蓮」くんの理由を調べてみたのですが、親の名づけの断言できる理由、願いなどが見つけられなかったものの、近年では音から名前を考える風潮があること、1文字の名前が現代的だと考えられること、花言葉の意味や蓮という植物のイメージからの由来、人名用漢字として1990年から使用可能になったことから人気になったと推測できます。

引用・参考

  1. 井上 輝子、江原 由美子編『女性のデータブック―性・からだから政治参加まで』、東京:有斐閣、2005.
  2. 明治安田生命「名前ランキング2014」http://www.meijiyasuda.co.jp/sp/enjoy/ranking/#/year/2014n
  3. 小林明「蓮・結衣の時代が到来? 赤ちゃんの名前に10年周期」http://www.nikkei.com/article/DGXNASFE1100H_R11C12A2000000/ 20121214、最終確認:20150928
  4. 小林明「名前で世相を読む 男子は「蓮・はると」時代へ」http://www.nikkei.com/article/DGXMZO82732290T00C15A2000000/ 20150206、最終確認:20150928