「マンガの王様」石森章太郎~異世界と多重世界を描いた物語
今回はSF映画「猿の惑星」ならぬ「犬の惑星」の物語である「ドッグ・ワールド」という作品と、多重世界で活躍する少年を描いた作品「番長惑星」を紹介します。石森章太郎は、世界で話題になっている事などに敏感に反応して、すぐに構想を練り作品化しています。映画「猿の惑星」もそうですが、多重世界(並行世界)と呼ばれるパラレルワールドについてもマンガの題材として取り上げました。
ドッグ・ワールド
ドッグワールドは1976年~1977年にかけて少年サンデーに連載された、犬が支配する星の物語です。主人公は、シバという剣士になることを夢見ている柴犬です。それとシバが出会う、ヒトと呼ばれる口をきけない人間の少年です。登場するのは犬たちだけで、人間はヒトだけです。犬の世界にも階級が有り、貴族、軍族、農民がいて貴族の下に剣士がいます。映画の「三銃士」が犬の世界になったような感じです。貴族と軍族はお互いを潰そうと戦争を画策しますが、それをあおっていたのは最高権力者である法王だったのです。というより、法王に指示した一人の不老の人間が仕組んだ事だったのです。
最終章になって分かる事ですが、犬の世界は7000年も生きている一人の老人により作られました。その星は氷河期によって人類が滅亡した後の地球だったのです。どうして老人は犬の世界を造ろうと考えたのか? そしてヒトは何故存在しているのか?「三銃士」や「猿の惑星」などを取り込んだ面白い作品ですし、「平和」や「人のこころ」を考えさせられる素晴らしい作品です。こういう作品を描けるのは石森章太郎しかいないのです。
番長惑星
番長惑星は、1975年~1976年にかけて少年チャンピオンに連載された、多重世界、パラレルワールドを舞台にしたSFマンガです。主人公は、喧嘩に明け暮れる中学生の等々力竜(通称リュウ)です。ある日、リュウは他校の多数の生徒に襲われ稲荷裏に逃げ込みますが、そこには大きな穴が開いた木のうろが有り、リュウはその中に落ち込んでしまいます。その中は深くて、下は池のようになっていました。やっと這い上がって来たリュウ。見慣れた町の様子だし、両親や友達も変わりありませんが、しかし明らかに違っているものが有りました。警官がロボットだったり、夜間は外出が禁止されていたり、殺人でさえ許可証が有れば許されるのです。やがてパラレルワールドの存在を知り、そこに迷い込んだと確信したリュウは、謎を探るうちに、世界を操る影(シャドウ)の存在に気付き、その秘密に迫ります。
もう一つの地球には両親もいて、友達もそのままいますが、そこにいるはずのもう一人のリュウの姿が見えません。何故なら、リュウが池に落ちた時に、もう一人のリュウも同じように池に落ちて、二人はある瞬間に重なり合い融合してしまったのです。その結果、リュウは常人では考えられない力を持つようになるのです。
こういうマンガを描かせたら、石森章太郎の右に出る者はいませんね。最初から最後までストーリーを決めて書いていたのか、途中で変更も有り得たのかは分かりませんが、独創的というか、その想像力は本当に素晴らしいです。「ドッグ・ワールド」にしても「番長惑星」にしても、発表当時はそれなりに人気が有ったと思うのですが、その後あまりメディアなどで取り上げられる事が有りません。石森章太郎を紹介する記事などで、代表作品として幾つか紹介される時でも掲載される事が無いですね。それが私としては非常に不満です。