性別の複雑さ~身体も典型な2つには分けられない~

生まれてから決まる性別

「元気な女の子ですよ」「元気な男の子ですよ」と医者が判断するのは多くは目視です。身体の外の性器がどちらかを確認します。性別を決める判断基準として外性器(ペニスやヴァギナ)、内性器(卵巣や膣や精巣)、染色体(XYやXX)などがありますが、通常、染色体まで検査するのは稀でしょう。性器がいわゆる「典型」の場合は、通常通り14日以内で出生届に性別を記入して子どもの名前とともに提出されます。

性別が「典型」でなかった場合

私たちの性器の大きさや形などは個人差が大きくありますが多くの人は「典型」とされ、それで不都合なく生活しています。けれども、ある一定数、外性器や内性器、染色体が典型でない状態があります。それが「性分化疾患(診断名、医療名)」「DSD(Differences of Sex Developmentの略称)」や「インターセックス」と呼ばれる状態です。

2009年世界陸上女子陸上800メートル金メダリストのキャスター・セメンヤ選手が性別を疑われ、性分化疾患と診断されたり、テレビ東京系列で六花チヨ著の同名の原作が福田沙紀と剛力彩芽のダブル主演で「IS~男でも女でもない性~」のドラマ化、放送されたりするなど、少しずつ認知度は上がってきているかもしれませんが、依然としてその存在を知っている人や困難を理解している人は少ないのではないのでしょうか。

性分化疾患、インターセックスとは

性分化疾患は2000人に1人と言われています。また、クラインフェルター症候群などは400人から1000人に1人と言われており、性分化疾患は私たちにとって決して遠い存在ではなく身近な事柄と言えるでしょう。外性器が女性か男性か見分けがつきづらかったリ、出生時の性別とは違う性別の内性器があったり、出生時の性別の外性器や内性器が発達しづらい状態などもあります。

染色体でも、多くの人が「46,XX型」「46,XY型」なのに対し、「45,X」などの「ターナー症候群」(注2、「47,XXY」「48,XXXY」などの「クラインフェルター症候群」(注3、典型の女性型の染色体ですが、胎児期に男性の生殖器系が発達した「副腎性器症候群(注4」など様々な症状があります。

こういった症状の総称が性分化疾患です。ちなみに性同一性障害は多くが「典型」の人が性自認(心の性)と身体の性が異なっていることに苦痛がある状態なので、一部を除き、性分化疾患と性同一性障害は違うものです。

また、インターセックスとは当事者を中心に使われている呼称です。「間性」という意味を持ちます。『境界を生きる 性と生のはざまで』の中では、60代、70代の性分化疾患の方も紹介されていました。近年やっと当事者やその家族、医療関係者の中で認識、知識、理解が深まってきたカテゴリですが、ずっと以前から存在していたことなのです。

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性分化疾患の困りごと

生まれてすぐ性別が判断できない時には、医師の判断で出生届の性別欄を空欄で提出し、後に加えるということができます。けれども、多くの医師がその法律を知らないことが続いていたため、生まれてすぐ親が子どもの性別を決めなくてはいけないこともありました。

また性別は後に医師の診断が間違いだった、と訂正できる場合もありますがこちらもあまり知られていないのかもしれません。

実際、今の日本では治療とは別に社会生活をおくる上で、性別をどちらかに決めて生活しないと「暮らしにくい」状態があるのは否めません。友人知人、近所の人、日常生活、例えば買い物に行った時でさえ「かわいい赤ちゃんですね。女の子ですか?男の子ですか?」と聞かれる場合もあるでしょう。あるいは、行政手続きなど公的な意味でも、性別を保留にしている状態は多くの人に知識がないために説明を求められたりそのことで煩雑で複雑な思いをしたりする状況も出てくるかもしれません。田舎では性別がわからないと困る、「外に出せない子じゃないか」と近所に思われる、と追い詰められる家族もいるようです。

「典型」の女の子だと思っていたけれども、脱腸し病院へ行ったら緊急手術になり、体内で睾丸が腸と絡まっていたため睾丸を切除するかどうか判断してくださいとその場で判断を迫られた例もあります。このように生命の危機があることもありすぐにどちらかの性別を選択しなくてはいけない状況もあります。

性分化疾患だと気づかずに大人になり、妊娠しない状況になったので不妊治療を受ける段階で性分化疾患、インターセックスだと気づく人も少なからずいます。

一昔前、二昔前ほど(1980年前後)では、男性器を形成する手術が難しかったため、「迷ったら女に」という医師たちの「常識」のもと、身体を女性に「合わせる」という風潮もありました。また、幼少期に手術をした場合、カルテがすでに破棄されて確認できなかったり、家族が手術のことを本人に告げていなかったりすることで自分自身が当事者だと確認できないまま体調不良や身体の変化に悩む人や、学校や社会で差別的な言葉をかけられることもあるようです。さらに、珍しいケースなので学生たちも立ち会わせてくださいと、多くの医療関係者に囲まれたり、医療機関の治療中に好気の目で見られたりむやみに体を触られたりすることによって嫌な思いをすることもあります。

性別を決めることを保留にして本人が自分の性自認を自覚できるようになってどちらかの性に身体を合わせていく場合でもその後の治療の難易度などは変化してきます。例えば、治療という点では男性として育った方が治療がしやすいけれども、本人は「女の子」という性自認を持っており、女性として生きたいと希望する例が『境界を生きる 性と生のはざまで』の中で紹介されていました。

さらには日本では「ふたなり」や「両性具有」などと言われたり、世間にあふれている情報では性的なイメージを付与されたりする状態にあり、暮らしづらい状態や友人や周囲の人に言いづらい環境ではないかと思われます。

(注1 性別の揺らぎを感じる方もいる一方で、ジェンダー論の一環、とりわけ第3の性として性分化疾患を取り上げること、あるいはセクシュアルマイノリティの一つとして取り上げること(今回はこういった取り上げ方はせず基本的に基礎の知識を取り上げるよう配慮したつもりなのですが)に、反対の意見を持つ方もいらっしゃるのは承知していますが、広く性分化疾患を知っていただきたいと思い、今回そういったことに配慮しつつ取り上げました。また、「インターセックス」という呼称も当事者を中心に使用されている用語ではありますが、一方で「インターセックス」という呼称が、世間から間違ったイメージを付与されているため適切ではないと主張する方々もいます。

(注2 ターナー症候群の女性は、2000人から5000人に1人の発生率と言われています。思春期に身長が伸びないことで気づくことが多く、卵巣の未発達、無月経、第二次性徴(乳房等)の未発現といった特徴があります。ホルモン治療によりかなり解消できるようです。

(注3 クラインフェルター症候群の男性は400人から1000人に1人の発生率と言われています。性自認はおおむね男性のことが多く、出生時の外見・男性器は典型的な男性型ですが、精巣の萎縮、無精子症等の性腺機能低下により思春期以降に乳房の発育や高身長などが見られることもあります。

(注4 副腎性器症候群のケースでは、具体的に書くと性染色体は典型の女性型だけれども、胎児期にアンドロゲンというホルモンを過剰に照射されたことによって、男性型の生殖器系が発達することがあります。性分化疾患の比較的出現率の高いものとしてはこのほかXXYの染色体を持った男性や、XXの染色体を持った男性、XYの染色体を持った女性などがあります。他にも多くの方が見られ、性分化疾患は本当に多様な症状があります。

引用参考

  1. 加藤ほか著『図解雑学ジェンダー』ナツメ社:東京、2005.
  2. 石田ほか著『NHK「ハートをつなごう」LGBT BOOK』太田出版:東京、2010.
  3. 毎日新聞「境界を生きる」取材班著『境界を生きる 性と生のはざまで』毎日新聞社:東京、2013
  4. 「DSD(性分化疾患)を持つ子どもと家族のための情報サイトネクスDSDジャパン」http://www.nexdsd.com/、最終確認:20151006
  5. テレビ東京「IS~男でも女でもない性~」http://www.tv-tokyo.co.jp/is/index.html、最終確認:20151008