どうやって学習機会を確保するか 学校とジェンダー セクシュアルマイノリティ編6

もっと知りたい!話したい!セクシュアルマイノリティ―ありのままのきみがいい〈3〉未来に向かって

さて、どうやって学ぶ機会を確保すればいいのでしょうか。NHKのおはよう日本で紹介されていたように「どう教えていいか分からない」と戸惑っている方は多いのではないでしょうか。

ここでは、学校でどのように取り上げることができるか見ていきたいと思います。

「性同一性障害に係る児童生徒対するきめ細やかな対応の実施について」の文部科学省の通知では、性的マイノリティの児童生徒に対し様々な配慮を要請していますが、相談体制等の充実としては、学級・ホームルームでのいじめや差別への生徒指導・人権教育等とそのほか性同一性障害に係る児童生徒や「性的マイノリティ」とされる児童・生徒が、日頃より児童・生徒が相談しやすい環境を整えていくことを求めています。

学級活動やホームルーム、総合の時間での活動

学級・ホームルーム、総合の時間としては、セクシュアリティの授業を行うことが考えられます。

性同一性障害や同性愛などのセクシュアルマイノリティに限らず、異性愛の児童・生徒も参加して自分の性のあり方をグラフ化するということも有効でしょう。自分のセクシュアリティを「身体の性」「こころの性」「好きな対象(男性を好きになる、女性を好きになる、どちらも好きになる、好きにならないなど)」をグラフにして、ひとりひとり同じ性の形はないと学ぶ方法です。セクシュアルマイノリティの方で好ましくないと感じる方もいるかもしれませんが、セクシュアルマイノリティのみで行うものではなくセクシュアルマジョリティも参加することによって多様性を学ぶことを目的とします。

セクシュアルマイノリティが悩みを書いた文章を、まずだれが書いたか、何を書いたかを説明せずに児童・生徒に読んでもらい、セクシュアルマイノリティとの共通点を見つける学級活動の方法もあります。

性教協会員を対象に行った調査では、「性の多様性」とテーマとした授業を行うにあたり欲しいものとして最も要望の多かったものがDVDなどの映像資料でした。

映像資料としては、新設Cチーム企画による「小学生向けDVD教材「いろんな性別~LGBTに聞いてみよう~」」、「高校生向け人権講座 「もしも友だちがLGBTだったら?」」などがあります。教員向けの資料としては「教員のためのセクシュアル・マイノリティサポートブック(第三版)」などがあります。サポートグループや当事者グループがパンフレットを作っていることもあります。

「DVDには質問できない」と生徒からの要望に対し、教師とともに授業づくりをしてくれるゲストスピーカーに授業を行ってもらう方法もあります。

英語、国語などの「科目」での活動

現在行っている各々の「科目」の授業にセクシュアルマイノリティの視点を含むことも可能です。

例えば、社会や歴史や世界史の授業で取り扱うであろうナチスドイツによるホロコースト。ナチスドイツによる迫害の対象はユダヤ人だけではなく障害者や同性愛者も含まれていたということを説明できます。ユダヤ人が黄色い星のマークを服につけなければならなかったのと同じように同性愛者は「ピンクトライアングル」というピンクのワッペンを服に縫い付ける必要がありました。

筆者は高校の世界史の授業で、あるエピソードトークを聞いた経験があります。ある西洋の同性愛嫌いの権力者がとても信頼して尊敬している「家庭教師」のような存在の「先生」が同性愛者だったというものです。嘲笑を含んで居らず、エピソードトークという意味合いが強かったです。個人的には世界史の興味が増しましたし、もしセクシュアルマイノリティの同級生がいれば、こういった時に肯定的なメッセージを受け取っていくのかもしれません。

英語の授業で、ゲイであることをカミングアウトした初めてのNY市長であるハーベイミルクを題材にした英文の教材を用意することもできます。

更にこういった場合海外や歴史上の人物だけでなく日本で活躍している事例を紹介すると、児童・生徒が身近にとらえやすいかもしれません。

NHK「おはよう日本」で放送されていた特集では愛媛県の例が紹介されていました。同性婚が可能な地域(州)を色分けしたアメリカの地図を見せて「何の地図?」と教師が問いかけていました。何の科目か、どんな状況の授業かは判断できませんでした。けれども、例えば地理の授業でアメリカやヨーロッパを取り上げる際こういった導入や授業を行うこともできるでしょう。

「性同一性障害に係る児童生徒対するきめ細やかな対応の実施について」では、「体育又は保健体育において別メニューを設定する」という性同一性障害の児童・生徒に対する例があります。ただ、保健体育などは、性的マイノリティの児童・生徒に別途対応するのではなく、現在行っている授業内容を見直し、異性愛も同性愛も両性愛も性別に違和がある人も社会の一員で、人は多様なんだ、という内容をすべての児童・生徒に行う方が、個人的にはいいのではないかのではないかと考えています。セクシュアルマイノリティだけを別途指導する、ということでは、他の児童・生徒の理解が進みませんし、セクシュアルマイノリティが「特別」で「違和感のあるもの」という印象を与えてしまうからです。

いろいろなマイノリティの観点を持つことによってマイノリティやマジョリティ(多数派)が生活しやすくなる

学級活動や保健体育以外の科目はどれかをできる範囲で行うことから始めるといいでしょう。もちろん多ければ多いほどいいですが、既に授業計画が多忙でしょうし、セクシュアルマイノリティ以外のマイノリティの対応が必要です。ただ、できる事をできる範囲で取り入れることによって、セクシュアルマイノリティの児童・生徒は学校生活が楽になります。また多様な人物がいていいんだというメッセージになり、セクシュアルマイノリティだけでなくセクシュアルマジョリティの他の児童・生徒、発達障害や被差別部落など他のマイノリティの児童・生徒にも肯定的なメッセージを与えるかもしれません。

根本的な問題として指導要領にセクシュアルマイノリティなどのマイノリティの観点を含むことも考えていく必要があるでしょう。上記の「教えられないセクシュアルマイノリティ」で紹介した、「同性愛についての記述は見当たらず、教科書を読めば読むほど存在が否定されていると感じた」と述べる同性愛者は、異性愛を前提とした教科書の記述を、セクシュアルマイノリティの子どもへの配慮を含めるように修正してほしいと文部科学書と教科書会社に求める署名運動をしています。小学校、中学校、高校の教育内容を決める指導要領が改訂されるのはほぼ10年に1回で、次回は16年度です。指導要領という根本的な変化にも注目したいですね。

 

 

引用

○神奈川新聞WEB「カナロコ 教科書の中に私はいない「多様な性」想定を 同性愛者の切実な訴え」20150528

最終確認:http://www.kanaloco.jp/article/98918

「思春期に入り、生殖機能が成熟してくると、自然に異性への関心が高まり、友情とは違う感情が生じてきます」

(東京書籍、12~15年度版「新しい保健体育」中学生向け)

「思春期になると異性のことが気になったり、なかよくしたという気持ちが強くなったりします」

(大日本図書2015年度版「新版たのしいほけん3・4年」小学生用)

「同性愛についての記述は見当たらず、教科書を読めば読むほど存在が否定されていると感じた」

「同性愛についての記述は見当たらず、教科書を読めば読むほど存在が否定されていると感じた」と述べる同性愛者は、異性愛を前提とした教科書の記述を、セクシュアルマイノリティの子どもへの配慮を含めるように修正してほしいと文部科学書と教科書会社に求める署名運動

指導要領が改訂されるのはほぼ10年に1回で、次回は16年度

○渡辺大輔「学校教育をクィアする教育実践への投企」、『現代思想〈第43巻第16号〉特集:LGBT』東京:青土社、2015。

学習指導要領には「性の多様性」は学習内容として明記されておらず、いくつかの高等学校家庭科目の教科書以外、検定教科書にもこのことについての記載はありません

2003年に性同一性障害の性別の取扱いの特例に関する法律が成立

学校関連としては性同一性障害の児童・生徒の存在が明らかになってきたことを受け2010年に文部科学省が全国の学校に対して「児童生徒が抱える問題に対しての教育相談の徹底について」という通知

いじめ防止対策推進法が2013年に成立したことを受け、文部科学省も2013年に全国の学校を対象に「学校における性同一性障害に係る対応に関する状況調査」を行いました。全国で606例の対応事例のうち該当児童生徒に特別の配慮をしている事例が約6割でしかないことが報告

これらやその他法律や社会の動向を受ける形で2015年に文部科学省により「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細やかな対応の実施等について」という通知

この2015年の通知に性同一性障害だけでなく同性愛など他のセクシュアルマイノリティも配慮の対象と明記

2008年の調査では同性愛の授業など学校教育の経験率は「一切習っていない」54.2%、「異常なもの6.1%、「否定的な情報」17.3%、「肯定的な情報」18.2%でした。2014年の調査では「一切習っていない」41%、「異常なもの」「否定的な丈夫」は合わせて30%と学習経験率は上がったものの、学校の授業等で自己のセクシュアリティを否定される経験率も上がって

「性同一性障害に係る児童生徒対するきめ細やかな対応の実施について」の文部科学省の通知では、性的マイノリティの児童生徒に対し様々な配慮を要請していますが、相談体制等の充実としては、学級・ホームルームでのいじめや差別への生徒指導・人権教育等とそのほか性同一性障害に係る児童生徒や「性的マイノリティ」とされる児童・生徒が、日頃より児童・生徒が相談しやすい環境を整えていくことを求めています。

性教協会員を対象に行った調査では、「性の多様性」とテーマとした授業を行うにあたり欲しいものとして最も要望の多かったものがDVDなどの映像資料

「DVDには質問できない」と生徒からの要望に対し、教師とともに授業づくりをしてくれるゲストスピーカーに授業を行ってもらう方法もあります。

○「NHKおはよう日本 特集まるごと どう教える 多様な性」20160120放送

教職員の側からは「生徒に教える前に、そもそも自分が性的マイノリティーについて分かっていない」「どう教えていいか分からない」「教師の間でも意見が分かれる」といった不安や戸惑いの声もあがっていました。

同性婚が可能な地域(州)を色分けしたアメリカの地図を見せて「何の地図?」と教師が問いかけて

○中越利佳、草薙康城、宇都宮温子、今村朋子、永江真弓「高校生の性知識と性情報についての調査報告」、『愛媛県立医療技術大学紀要第7巻第1号』P.37-44、2010、http://www.epu.ac.jp/uploaded/attachment/1021.pdf

最終確認:20160303

性に関する知識の情報源は、女子が学校や雑誌、男子はインターネットが有意に高い

 

○日本性教育協会、東京性教育研修セミナー2013報告「青少年の性行動の日常化と分極化 ──「第7回青少年の性行動全国調査」からみえてくるもの──」(中澤智惠氏報告要旨)、『現代性教育研究ジャーナル2013 28号』p1-6、2013 www.jase.faje.or.jp/jigyo/…/seikyoiku_journal_201307.pdf 最終確認:20160303

性交に関する情報源としては、中学生、高校生、大学生のいずれも「友人・先輩」を情報源とするという人が多く、続いて、「学校」「インターネット」「マンガ」 となります。性交の情報源は、中学校から大学生まで、いずれの学校段階でも、「友人・先輩」が最も多く、それに続くのが、「学校」「インターネット」「マンガ」となっています。避妊の情報としては「友人・先輩」が多いものの、それを上回って「学校」に頼っています。 高校生・大学生ではともに、1位学校、2位友人・ 先輩、3位インターネットの順です。いずれも男女差 があり、女子では「学校」を、男子では「友人・先輩」「インターネット」を情報源

 

○人間と性”教育研究所編『同性愛・多様なセクシュアリティ : 人権と共生を学ぶ授業』東京 : 子どもの未来社,2002.

セクシュアルマイノリティが悩みを書いた文章を、まずだれが書いたか、何を書いたかを説明せずに児童・生徒に読んでもらい、セクシュアルマイノリティとの共通点を見つける学級活動

迫害の対象はユダヤ人だけではなく障害者や同性愛者も含まれていたということを説明

ユダヤ人が黄色い星のマークを服につけなければならなかったのと同じように同性愛者は「ピンクトライアングル」というピンクのワッペンを服に縫い付ける必要

英語の授業で、ゲイであることをカミングアウトした初めてのNY市長であるハーベイミルクを題材にした英文の教材

 

○新設CチームWEBページhttp://rupan4th.sugoihp.com/index.html

小学生向けDVD教材「いろんな性別~LGBTに聞いてみよう~」」、「高校生向け人権講座 「もしも友だちがLGBTだったら?」」

「教員のためのセクシュアル・マイノリティサポートブック(第三版)」

 

○「性同一性障害に係る児童生徒対するきめ細やかな対応の実施について」

http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/27/04/1357468.htm

「体育又は保健体育において別メニューを設定する」