地方巡業の魅力とは

大相撲カード ‘99上半期版 巡業の一日 相撲甚句<150> BBM

まず、大相撲は本場所の成績を基準にして力士や行事・呼出・床山などの裏方と呼ばれる人たちも含めて番付や階級の昇降を決めており、この本場所は1・5・9月に東京、3月に大阪、7月に名古屋、11月に福岡で15日ずつ開催されています。その近くに住んでいる人ならば手軽に行くことができるものの、北海道や中・四国地方など会場から遠く離れた地域の人は行くだけでもかなり時間やお金がかかってしまいます。そこで、本場所が開催されていない偶数月を中心に、これらの地域を回って本場所に近い内容を行ってくれるのが地方巡業です。

地方巡業はファンと力士の双方にメリットがある仕組みだと思います。先述のような地域の人にとっては、わざわざ本場所まで足を運ぶ必要はなく相撲を見ることができます。料金も本場所よりも安くしているところもあり、こういったところでは尚更、行きやすく感じられると思います。そうすることで新たにファンの数が増えることに繋がります。力士にとっても、普段の相撲部屋以上に実践的な稽古を積むことができるので、実力の向上につながるだけでなく、地元の中高生力士との公開稽古などもメニューに組まれているため、そこで強そうな力士をスカウトして上手くいけば新たな弟子を獲得できる可能性もあります。

地方巡業が開かれる日数は人気が低迷していた平成20年代前半頃は凄く少なかったものの、今は急激に増えて、1ヶ月あたり20日程度になりました。ただし去年は2月と6月は開催されていませんでした。また、季節によって回る地域は決まっており、4月と10月は東北地方を除く本州一体と四国地方、8月は北海道・東北地方、12月は九州・沖縄地方となっています。開催期間中は1日ずつ巡業が行われることが多く、力士たち一行は巡業が終わると、すぐにバスに乗って次の巡業先に移動しなければならず、強行スケジュールといって良い程です。さらに、巡業先が決まると、一部の親方や行事などが、そこに向かい、宿泊先を手配したり、巡業の宣伝をしたりする仕事を熟します。大抵の場合、地域単位で担当が決まっているので、十数か所に対して、これらの作業を行うことになり、かなり大変だと思います。

このような準備とスケジュールの基で行われる地方巡業は、本場所とは違い、かなり楽しい要素がいっぱい詰まっています。まず8時頃が開場となっており、入り口には呼出さんが開始を告げる寄せ太鼓を打つ様子を間近で見ることができます。普段は高台の上に登って打っているのであまり打つ様子は見えません。中に入ると土俵上では番付が低い順にぶつかり稽古と三番稽古を熟していきますが、その間、関取は会場周辺でストレッチをしたり、談笑したりしているので、遠藤関や稀勢の里関のような人気力士も間近で見ることができる上、中にはサインに気軽に応じてくれる力士もいます。さらに入口近くのスペースでは人気力士との握手会も開いており、列に並べば、これらの力士と触れ合うことができます。なので、地方巡業では、本場所以上に力士と接する機会が多いといえます。

肝心の土俵上でも、昼前ぐらいから取り組みが組まれていますが、本場所の半分以下になっている上、進行メニューは本場所とは異なり、国技館で行われる引退相撲や2月に行われる福祉大相撲のときに近い形が取られています。具体的には取り組みの合間に、地元の学生力士との稽古や初っ切り、相撲甚句、櫓太鼓の打ち分けなど大相撲の伝統を楽しめるお楽しみコーナーが入っています。この中でも初っ切りは取り組みの禁止ルールを披露する余興とされていますが、実際はお笑い的な要素が多く、初めて見る人でもかなり楽しめるのではないかと思います。また、十両・幕内力士の土俵入りの際に小さい子供を抱いて入場するサービスもあり、これは地方巡業しか見られない光景で和やかな雰囲気になります。こうして一連の行事は午後3時には終了して、力士たち一行は次の巡業先へ向かっていきます。

以上のように地方巡業には、普段テレビで見ている光景を間近で見られるだけでなく、力士と身近に触れることができるという魅力があるといえます。