ちゃんこ鍋のあれこれ
ちゃんこ鍋とは相撲部屋で食べられている鍋料理のことをいいますが、この名前の由来は色々ありまして、例えば父ちゃん・おっちゃんなどの「ちゃん」と東北地方の方言の語尾につく「こ」がついたからという説や、中国の事を「チャン」とよび、中国語で鍋を「クオ」という事から中華鍋の意味から取ったという説があります。
ちゃんこは相撲部屋で力士が作る料理全般のことを指しますので、カレーや筑前煮など、一般家庭で、ごく普通に食べられているものでも相撲部屋では「ちゃんこ」と呼んでいます。ちなみに実際、相撲部屋で食べられているのは鍋料理だけではなく、麻婆豆腐や煮物などのおかずが2~3品ほど付いている部屋が多いです。
相撲部屋では1日に昼食と夕食の2食だけなのが基本で、朝食抜きで猛稽古に耐えた後に食べる昼食を楽しみにしている力士もいるほどです。食事は一度に作ってしまうことが多いので、力士の数が多い部屋では調理場で大鍋を使って料理の仕込みなどが行われています。さらに、ご飯を炊くときも炊飯器でなく大鍋を使うことが多いです。なぜなら力士は相当な量のご飯を食べなければならないので、炊飯器だと1度に炊ける量が限られるため、とても食事スピードには追いつけないからです。
この食事を作っているのは力士で、買い出しから調理・配給までを全てちゃんこ当番にあたった力士が分担して行う部屋が多いです。部屋の中には、ちゃんこ長という料理を作るのが、すごく上手な力士もいることがあり、場合によっては師匠から稽古を免除されて専ら調理担当として生活していることもあるぐらいです。こういった力士は引退した後は、自分でちゃんこ屋などの店を開いて独立するケースが多いです。なので、相撲部屋で出される、ちゃんこの味は全体的においしいとの評判がありますが、一般の人が相撲部屋でちゃんこ鍋を食べる機会は少なく、朝稽古の見学が終わったら速やかに帰らなければならないことが多いです。ただし、後援会に入会したり、予め組まれているツアーに参加したりした場合などは、ちゃんこ料理を食べることができます。食事順は、まず師匠や関取といった上位力士から始まり、新弟子や番付の低い力士は最後になります。その間、こういった力士達は先に食べている人のおかわりに応じたり、追加分を作ったりしています。後援会などの関係者は一番先のグループで食事を取ることになるので、親方や有名力士と一緒の席で食事を取ることになります。また、ちゃんこ鍋は昔ながらの、アルマイト製の鍋が使われることが多く、土鍋はあまり使われていません。
昔の相撲部屋では、初めのうちは、おかずも含めて具材が豊富にあり、おいしいところや珍しい部位を頂くことができます。後者の例ではイカの腸や、魚の目玉などがあります。ところが、新弟子が食べるころには具材は残っておらず大量の汁をご飯にかけて雑炊で食べる部屋が少なからずありました。なので、贅沢な食事を目指して頑張ろうという奮起する要素がありました。しかし、現在は食料も手に入りやすいので、このようなケースは殆どありません。
ちゃんこ鍋の具や味付けは部屋ごとに受け継がれているケースが多く、そのレシピが公開されている部屋も一部あります。ベースの味付けは塩味・醤油味といった一般的なものから、キムチ味などエスニック系なものまでバライティに富んでいるのが特徴です。具材は寄せ鍋のようにメインの具材で鶏肉などの肉類とタラなどの魚類を一緒にすることはなく、メインの具材を決めてから、ネギや油揚げといった、その他の具材や味付けを構成していくというスタイルを取る部屋が多いです。肉類と魚類をセットで入れると、肉類の飽和脂肪酸と魚類の不飽和脂肪酸が栄養面で打ち消し合ってしまうため、相撲部屋のスタイルは、この点では理にかなっていると言えるのではないかと思います。また、本場所前には鶏肉をメインにすることも多く、これは鶏が二本足で手がついていない様子からゲン担ぎ的な意味で食べられています。
具体的にどのような、ちゃんこ鍋が食べられているのかを例をいくつか紹介したいと思います。
まず、玉ノ井部屋の塩味ちゃんこの場合は鶏ガラスープをベースに韮と、にんにくで辛味を付けているのが特徴で、メインの具材は鶏モモ肉、ベーコン、ウィンナーが入っておりボリュームがありますが、この旨辛味と白菜の甘味がさっぱりとマッチしていて食べやすくなっております。肉類が入っているタイプでは肉団子を入れているケースもあり貴乃花部屋のちゃんこ鍋は、豚と鶏の合挽肉から作られる肉団子と豚バラ肉を含めた豚汁の具材が使われていますが、味は醤油ベースで切餅も入っているのが特徴です。この合挽肉の肉団子に人気があります。魚系をベースにした、ちゃんこの例は宮城野部屋の鯵のつみれちゃんこがあり、和風塩味のスープに鯵つみれ団子と海老や大根などの味噌汁で使われる具材が入っています。この団子がしっかり鯵がついていておいしいとの評判があります。うどんが入っているのも特徴の一つです。かわりネタとしては友綱部屋のキムチ味のちゃんこがあります。具材は豚バラ肉を含めて一般的な豚汁で使われるのと同じですが、うどんと、わたり蟹が入っているのが特徴で、キムチの辛味とこれらの具材との相性がかなり良いとの評判があります。
両国周辺にいけば、元力士が経営しているケースが多いことから、ちゃんこ屋が多くあります。値段は、そこまでは安くないものの、ランチタイムに行けば、ちゃんこダイニング安美など、1000円以下でちゃんこ鍋を食べることができます。
また、本場所が開催されている間は国技館の地下スペースで相撲部屋本場のちゃんこ鍋を1杯300円で食べることができます。メニューも場所ごとに違った部屋の味が楽しめるようになっており、本場所の楽しみの1つです。
一度、両国周辺まで足を運ぶ機会があれば、是非とも、ちゃんこ鍋の味を堪能するもの良いのではないかと思います。