関取と取的は雲泥の差

力士の世界 (文春新書 603) | 33代木村庄之助 |本 | 通販 | Amazon

大相撲では、関取になれるか、慣れないかで生活のスタイルやステータスが大きく違ってくるので、力士に成る人の殆どは、この関取になることを夢見て日々精進しています。この関取は番付でいうと幕内と十両の力士のことをいい、それ以下、即ち幕下力士以下の力士は全員取的と呼ばれて区別されます。前者には定員があり、平成29年1月場所では幕内が41人、十両が28人なので、関取は大体70人ぐらいです。力士全員の人数は場所によって変動はありますが、おおよそ650人なので、大相撲の世界では9人に1人しか関取になることができない、厳しい世界と言えると思います。ちなみに番付表では、この境目である十両と幕下の力士は同じ上から2段目に名前が載りますが、字の大きさが幕下ではかなり小さいです。ちなみに1段目は幕内力士。3段目はそのまま三段目力士、4段目は序二段力士、一番下の5段目には序ノ口力士の他に親方・世話人・若者頭といった職員の他に、呼出・床山の一部の名前が載っていますが、やはり時の大きさが異なり、序ノ口力士は虫眼鏡と言われるほど小さい字となっています。

具体的にどういった違いが生じるかを紹介します。まず、力士は行司や親方と同じように日本相撲協会の協会員という位置づけになっていて、これは、一般企業の社員に近いと考えて良いと思います。しかし、取的の力士は力士養成員との立場になり正式なメンバーとはみなされていません。このため、協会から給料が支給されるのは関取になってからです。この給料は月給制ですが、最低地位の十両でも103万6千円もあります。横綱の月給が282万円、大関の月給が234万7千円なので、最高でも3倍も離れていません。このように、月100万円以上の給料がもらえるので、関取で好成績を残して地位を維持できれば、収入は大きく安定するので、結婚したり、家を建てたりすることができ、そのような場合は、自宅から相撲部屋に通勤という形で稽古することも許される部屋が多いです。ちなみに取的に対しても本場所手当という形で場所ごとに協会からお金が支給されますが、幕下で15万円、序ノ口で7万円なので、月給換算すれば前者で7万5千円、後者で3万5千円となりますので、幕下と十両との差は13.8倍と雲泥の差があることが分かると思います。それでも幕下力士ではアルバイト程度の月給があることを考えれば、必ずしも「取的は無給」というわけではありません。

次に、関取に昇進すると、本場所では様々な伝統的な、しきたりを経験することができます。例えば、大銀杏を結うことができ、取組前に十両と幕内に分かれて土俵入りに参加することができます。その中で後援会や学校の関係者などから送られた化粧回しを披露します。そして、これらを入れるために、自分の四股名である名前が入った明け荷も使えるようになります、これは竹製の籠のようなもので、和紙や漆も使われているので、昔ながらの伝統的な造りといってよいと思います。ちなみに、この明け荷は横綱に昇進すると3つまで使えるようになりますが、横綱土俵入りの際に太刀持ちや露払いの力士がつける化粧廻しも入れる必要があるからです。

また、本場所の前日に開かれる土俵祭など、協会の行事に出席できるようになり、その場合は黒の紋付袴を着て臨みます。

取組の時でも両者の違いが明確に現れます。まず、1場所の取り組みの数が取的では7番なのに対し、関取は毎日、計15番に増えます。力士は自分の取り組みの2番前までに土俵の下入って待機することになりますが、その際に関取では座布団を敷いて待つことができます。そして、実際に取り組みの際につける、廻しの色を選ぶことができます。力士によって緑色や青色、最近ではオレンジなどの明るい廻しを付けて土俵に立つケースも見られるなどバライティが豊富になっており、これを見ることで誰かを識別することもできます。ただし、場所途中で色を変えることもあるので注意が必要です。ちなみに、この廻しの事を締め込みと言います。一方、取的は黒一色しかつけることができない上、これは普段の稽古でもつけているものです。関取になると普段の稽古でつけている廻しの色は白色に変わります。ここでも違いが出てきます。これらのケースでも例外はあり、例えば幕下力士の場合、筆頭から5枚目以内に上がれば、1場所8番、組まれるケースもあったり、十両力士との取り組みが組まれることがあった場合、大銀杏を付けることになったりします。

さらに相撲部屋の中でも待遇の差が出てきます。まず、プライベートでは「~関」と呼ばれるようになり、自分自身のステータスが上がります。また、これまでは大部屋で他の力士と一緒に寝ていましたが、個室が与えられて自由に生活できるようになります。このような傾向は巡業等で移動する際も同じで、例えば取的の多くは新幹線で集団移動して大阪場所など地方場所の宿舎に向かっていたのが、単独で移動しても良いことになります。ちなみに、この集団移動に使われる列車は相撲電車とも呼ばれていて、そこから降りてくる多くの力士の様子は、場所が近づいたと実感できる瞬間だと思います。

そして、関取には付け人を付けることができます。これが最大の特徴といって良いと思います。なぜなら、廻しの洗濯や、買い物などの日常生活の身の回りの世話の殆どを付け人がやってくれるからです。なかには体洗いまでも、やってくれるケースもあります。付け人の仕事は、これら日常生活の身の回りの世話の他にも本場所で必要になる化粧まわしや明け荷の準備や取組前のウォーミングアップの相手になるなど、幅広いです。この付け人は部屋の取的が努めますが、部屋の力士が少ない場合は同じ一門の部屋から借りることになります。また、番付が上がるほど付け人の数は増えていき、横綱の場合は最大10人までつけても良いことになっています。これは先述のように横綱土俵入りなど、使う道具が多いことが理由の1つです。

これらのように関取と取的との間には雲泥の差があると言っても良いと思います。