大相撲はスポーツでなく神事である

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プロの大相撲は伝統的要素に基づいている

相撲は小学生が出るわんぱく相撲大会や国体等の競技の一種で行われているタイプのものと、日本相撲協会が開催しているタイプのものがあり、前者はアマチュア、後者はプロの相撲と明確に区別されています。それは、金銭面だけでなく、前者が単に競技的な要素で相撲が行われているのに対し、後者は伝統的な要素に重きを置いて相撲が行われているという違いがあります。

土俵は神聖な領域である

まず、具体的な例として相撲部屋の入門条件が男子に限られる点が挙げられます。これは神や仏などが信じられていて、稲作など第1次産業が中心だった60年以上前に、農作物が凶作に陥る原因の1つである水害などの災害が、悪霊が現れて暴れているからだと信じられていました。そこで、この悪霊を鎮めて再び現れないようにする方法の1つとして頑丈な人が土俵の中で四股を踏み、地面を固めるという行為が広く浸透するようになりました。なお、神社やお寺の鳥居にしめ縄が飾られているのは、そこから先は神様がいる領域であることを示しているとされています。これと同じような考えで、俵で囲んだ土俵の中も神聖な領域と見なされており、その中で力強いとされている男性が四股を踏むことで豊作を祈っていました。なので、一部例外はあるものの、力士は体格が大きい男性に限られます。ちなみに横綱は神であるという考えも、綱を巻いた内部が神聖な領域であるためであるとされています。

大相撲ならではの行為や儀式も土俵に由来する

この神聖な領域である土俵の上で力士たちは相撲を取りますが、相撲を取る前に必ず、土俵祭という儀式を行います。これは本場所に限らず、相撲部屋で土俵を新たに作った際などにも行われています。この儀式は、土俵の中に神様をお迎えして力士たちの安泰を祈願するというものです。行司が祭主となってお祓いを受けたり、土俵の中に縁起の良いものを入れたりします。この時、入れるものは勝栗・カヤの実・するめ・昆布・塩・洗米の6種類です。本場所の場合、千秋楽に全ての行事が終わった後に、その場所で出世した力士たちが十両格の行司を胴上げする神送りの儀式で終了する流れですが、これも行司を神様に見立てて、迎え入れた神様を送り出す大切な儀式となっています。

また、土俵の上には4つの房や神社の神殿に近い屋根がありますが、前者は朱雀・白虎・玄武・青龍の、4つの方角を司る四神に由来しており、それぞれの房の色は、それぞれ赤・白・黒・青となっています。ちなみに65年前までは房ではなく柱に布を巻きつける形で表現していましたが、テレビ中継を見やすくするためにと今の形に修正された経緯があります。後者は伊勢神宮などの神社でよく見られる本殿の造りと同じです。これらからも、土俵は神が宿る領域であると考えられます。

本場所の関取の取り組みで塩を撒いたり、柄杓の水で口をゆすいだりする行為も、神事に基づいた考えによるものだとされています。先述したとおり、土俵は神聖な場所であるため、穢れたものを持ち込むことはできません。塩には穢れを払って、活力を与えるものとされているので、これを撒いて自身を清浄なものとしてから土俵の中に入ります。また、柄杓の水で口をゆすぐ行為も、水も同じく穢れを払う効果があるため、これを用いて自身を清めるために行われるものであり、この後受け取る化粧紙で口や顔などを拭いてから土俵の中に入ります。相撲の世界では「清く明らかになるものを勝ちと見なし、重く汚れるものを負けと見なす」と方屋開口という故実言上に言われているように、穢れを払うためには勝った力士から、柄杓の水を受け取るようになっています。この行為は力水とつけると呼ばれています。

大相撲は神事の1つとして行われている

以上のように、女人禁制である点や神様に深くかかわる行為や儀式に則って実施されている点などからも、大相撲がスポーツではなく神事の1種であることが言えるのではないかと思います。