ウディ・アレン監督最新作映画「カフェ・ソサエティ」に見る男の夢
2017年5月5日にウディ・アレン監督最新作映画「カフェ・ソサエティ」が劇場公開されます。
近年のウディ・アレンの作品は、主人公の男性にアレン自身を投影したような性格とアレンの叶えたかった夢が反映されていると感じられることが多く、映画「カフェ・ソサエティ」もこうした特徴を多く含んでいます。
今回は映画「カフェ・ソサエティ」を含むウディ・アレン作品に見る男の夢と作品の見どころを掘り下げていきます。
映画「カフェ・ソサエティ」あらすじ
主演はジェシー・アイゼンバーグ。
共演はクリステン・スチュワート、ブレイク・ライブリー、スティーヴ・カレルなど。
「ハリウッドの黄金期」と言われた1930年代、刺激的な人生を夢見る平凡な青年ボビー(ジェシー・アイゼンバーグ)は生まれて初めてニューヨークを出て、華やかな映画の都ハリウッドへやってきます。ハリウッドの大物エージェントである叔父(スティーヴ・カレル)のもとで働き始めたボビーは、美しくも飾らない魅力を持つヴェロニカ(クリステン・スチュワート)、愛称“ヴォニー”に心奪われます。ヴォニーが彼氏に振られ、懸命に励まし続けたことで彼女と親密になれたボビーは、彼女との結婚を思い描きますが、実はヴォニーは元彼と切れておらず・・・。
ニューヨーク、ハリウッドを舞台に夜ごと集う煌びやかな夢の住人たちの世界<カフェ・ソサエティ>を舞台にボビーとヴォニー、そしてボビーの前に現れる麗しきもう一人のヴェロニカ(ブレイク・ライブリー)が織りなすビタースウィートでゴージャスな大人おとぎ話。
タイトル:「カフェ・ソサエティ」
2017年5月5日(金)TOHOシネマズ みゆき座ほかにて全国ロードショー
配給:ロングライド
公式サイト:http://movie-cafesociety.com/
ウディ・アレンとは?
1935年生まれ現在81歳のウディ・アレン。
代表作は映画「アニー・ホール」「ミッドナイト・イン・パリ」「ブルージャスミン」など多数。今回は映画監督としてのアレンをご紹介しますが、俳優・脚本家・小説家・クラリネット奏者と多才な顔を持ちます。
近年、日本映画界は原作小説や漫画の実写化ブームでオリジナル脚本が作りにくい、作ったとしてもヒットに繋がりにくいといった状況にあります。それはハリウッドも同じで、アレンのように監督・オリジナル脚本・俳優すべてを兼ねることができ、成功した映画人は、北野武とチャールズ・チャップリンとオーソン・ウェルズとアレンの4人だけと言われています。
アレンは、初期の頃はコメディアンとして成功していたこともあり、彼の作品は、会話劇がウィットに富んでいて、世情を皮肉るようなピリリとスパイスが効いたものが多いです。
また、オーストリア系ユダヤ人のアレンは、子ども時代に第二次大戦のナチスによるユダヤ人迫害を経験しており、アレン自身は宗教嫌いですが、主人公がユダヤ系であることも多いです。
ハリウッド嫌いとしても知られており、米アカデミー賞には史上最多の24回ノミネートされ、監督賞を1度、脚本賞を2度受賞していますが、授賞式には2002年の第75回米アカデミー賞授賞式に前年に起きたアメリカ同時多発テロのオマージュ作品を撮った時以外、受賞しても姿を見せたことがありません。
本作では久々にナレーションを担当しており、1930年代のコケティッシュな世界観に一役かっています。
カフェ・ソサエティとは?
“カフェ・ソサエティ”とは、1915年にモーリー・ヘンリー・ビード・ポールが言い始めたフレーズで、当時のニューヨークやパリ、ロンドンのカフェやレストラン、クラブでパーティーを行い、人目を引くような美しい人々のことを表現した言葉だそうです。
1930年代ハリウッドを彩る実力派&若手注目キャストを紹介
ボビー・ドーフマン/ジェシー・アイゼンバーグ
ユダヤ系一家に育った平凡な青年ボビー。
ニューヨークで暮らす両親のもとを初めて離れ、ハリウッドで大物エージェントとして名を馳せている叔父フィルを頼り、やってきます。
フィルの紹介でボビーの面倒を見ることになった秘書ヴェロニカに一目ぼれし、猛アタックの末、交際することになりますが・・・。
ボビーを演じているのは、2010年に主演した映画「ソーシャル・ネットワーク」でブレイクしたジェシー・アイゼンバーグ。
DCコミックシリーズの2016年の映画「バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生」に引き続き、2017年の映画「ジャスティス・リーグ」にも出演予定です。
クセの強い役やヒール役が多いアイゼンバーグですが、本作では純朴で真っすぐなごくごく平凡な青年を演じています。
ヴェロニカ(愛称“ヴォニー”)/クリステン・スチュワート
叔父フィルの秘書で愛人。
ハリウッドに来た当初は演劇を専攻してこともあり役者志望でしたが、ハリウッドの見せかけの豪華さに嫌気がさし、秘書になった先でフィルに一目ぼれをされます。
フィルにボビーの案内役を頼まれ、毎週末をともに過ごすうちに真っ直ぐな愛情を示してくれるボビーに惹かれていきます。
ヴォニーことヴェロニカを演じているのは、映画「トワイライト」シリーズのクリステン・スチュワート。
「トワイライト」シリーズで一躍ティーンの人気No.1女優になったスチュワート。
「トワイライト」以降は自身にとってスキル・アップになるような内容重視のミニシアター系作品を選んで出演しています。
2015年に出演した映画「アクトレス〜女たちの舞台〜」では、名女優ジュリエット・ビノシュを相手に堂々たる演技を披露し、第40回セザール賞の助演女優賞をアメリカ人としては初めて受賞するという快挙を成し遂げるなど、多くの映画賞を受賞しました。
2017年は映画「パーソナル・ショッパー」「ビリー・リンの永遠の一日」の公開が決まっています。
ヴェロニカ/ブレイク・ライブリー
ボビーの前に現れるもう一人の美女ヴェロニカ。
親友に夫を寝取られ離婚し、ボビーの友人を介して引き合わされます。
ヴェロニカを一目見た瞬間から速攻で口説き始めるボビーを大人の余裕で対応します。
ボビーとの間に子どもができ、結婚することになりますが・・・。
もう一人のヴェロニカを演じているのは、テレビドラマ「ゴシップガール」で主人公セリーナを演じ、日本でもブレイクしたブレイク・ライブリー。
ティーンの間のファッションアイコンとしても人気が高いです。
代表作は映画「旅するジーンズと16歳の夏」「アデライン、100年目の恋」「ロスト・バケーション」など。
フィル・スターン/スティーヴ・カレル
ボビーの叔父でハリウッドの大物エージェント。
ボビーとの約束を3週間すっぽかすほど忙しくしており、社交界の交友関係に命を懸けているところがあります。
長年連れ添った美しい妻と子どもとの仲は良好にも関わらず、ヴォニーに一目ぼれし、付き合うことに。
常に家庭とヴォニーの間で気持ちが揺れ動き、何度も「妻とは別れる」と言い、ヴォニーを振り回します。
フィルを演じているのは、コメディアンで俳優のスティーヴ・カレル。
ウディ・アレン作品は2005年の映画「メリンダとメリンダ」以来のタッグになります。
2005年に主演した映画「40歳の童貞男」でブレイク。
2014年に主演した映画「フォックスキャッチャー」でその年の米アカデミー賞、ゴールデングローブ賞の主演男優賞にノミネート、2015年の映画「マネー・ショート 華麗なる逆転劇」でもゴールデングローブ賞にノミネートされるなど実力派俳優の一人です。
●ローズ/ジーニー・バーリン
ボビーの母親でユダヤ教徒。
ローズがボビーをハリウッドへ送り出し、フィルに世話を頼みます。
ローズとベンの長年連れ添った者同士だからこその会話劇がとてもウィットに富んでいて、ユダヤ教徒を皮肉ってみたり、喧嘩中なのに気のきいた台詞がポンポン飛び出し、二人のシーンはクスクス笑ってしまいます。
ローズが隣人トラブルをボビーの兄ベンに「何とかして。」と泣きついた結果、大変なことに。
ローズを演じているのは、アメリカの女優ジーニー・バーリン。
1973年の映画「ふたり自身」で第45回米アカデミー賞、第30回ゴールデングローブ賞助演女優賞にノミネートされています。
21世紀に入ってからは日本で公開された作品はありませんでしたが、2015年の映画「インヒアレント・ヴァイス」と本作で久々にバーリンの演技を観ることができました。
●ベン/コリー・ストール
ボビーの兄でニューヨークのギャング。
強盗、恐喝、殺人と一通りの悪事をやってのけ、これまで捕まっていないのが不思議なくらいのひょうひょうとした悪党。
家族に対しては優しく、ボビーには自分が所有するクラブの経営を任せ、母親が横暴な隣人に悩んでいると知るや、隣人を殺してコンクリート詰めにしてしまいます。
その結果、第一級殺人で逮捕され、キリスト教徒に改宗し、母親に嘆かれてしまいます。
ユダヤ教徒ながら宗教嫌いなアレンの意思が反映されているキャラクター。
ベンを演じているのは、実力派俳優のコリー・ストール。
ドラマ・映画・舞台と幅広く活躍し、アレンとは2012年の映画「ミッドナイト・イン・パリ」で小説家ヘミングウェイを演じて以来のタッグになります。
代表作は映画「アントマン」、ドラマシリーズ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」「ストレイン 沈黙のエクリプス」など。
ジェシー・アイゼンバーグのボビーに見る男の夢
近年のウディ・アレン作品は、ロマンティストな草食男子たちに特に人気があります。
その理由は「若い頃こうであったなら。」というアレン自身の男の夢が、そのまま主人公に反映されていると感じられるものが多くあるからです。
2008年の映画「それでも恋するバルセロナ」のハビエル・バルデム、2010年の映画「人生万歳」のラリー・デヴィッド、2012年の映画「ミッドナイト・イン・パリ」のオーウェン・ウィルソンしかり、実力派俳優ではあるけれど、一癖ある名脇役タイプの俳優たちが、「冴えない、モテない、低身長」なこじらせ系主人公を演じ、なぜか美女たちにモテて、図らずとも美女たちの間で主人公の取り合いになってしまったりするのです!
本作でジェシー・アイゼンバーグ演じるボビーもまさにそうで、冒頭、自分で娼婦を呼んでおきながら、他にホテル客にバレないかを神経質なほど気にし、「モテたいけど、ヤリたくて呼んだわけじゃないんだ!」というスタンスのもと、娼婦が同じユダヤ系と知るや否や「君はこんな仕事をするべきではない。」と帰そうとしたり、娼婦が泣きだせば「やっぱり寝よう!」と言ってみたり、もう、こじらせ具合がハンパないんです。
常に女性側に「関係を前進させるための言い訳」を用意させるのもアレン作品の特徴のひとつです。
そして、そんなウブなボビーもハリウッドの煌びやかな世界を経て、物語の中盤には高級スーツに身を包み、セレブたちと気の利いた冗談を言い合い、スマートに花束をプレゼントできるまでに成長します。
そんなボビーに立ちはだかる恋のライバルが、これまた映画「40歳の童貞男」などこじらせおじさん感がハンパない俳優スティーヴ・カレル。
カレル演じる叔父のフィルは、金と人脈に自信ありのハリウッド・セレブ。
フィルもまた、ボビーの想い人ヴォニーから「奥さんがいても好き!」と愛されています。
ボビーはボビーで、ヴォニーを愛していながら、ヴォニーとは対照的な、高身長でスタイル抜群なもうひとりの美女ヴェロニカにも愛されます。
これぞまさに、アメリカン・ドリームを超えた男の夢!!
男のロマンをすべて詰め込んだ映画、それがウディ・アレン作品なのです。
ウディ・アレン作品に出演した女優はブレイクする!?作品を彩る美しき女優たち
ウディ・アレンは気に入った女優を続けて起用し、時には主演女優と恋仲になってしまうことがあります。
それゆえ、「今はあの女優がアレンのお気に入りか。」と言われてしまうのですが、女優たちもアレン作品に続けて出演している時期に一皮むけて、一気にトップクラスの女優へと成長することが多いです。
1972年の映画「ボギー!俺も男だ」で共演した際に恋仲になり、映画「スリーパー」「アニー・ホール」「インテリア」「マンハッタン」と続けて起用されたダイアン・キートンは、「アニー・ホール」で米アカデミー主演女優賞を獲得し、今や名女優へと成長しました。ダイアンとは別れた後も良好な関係を保ち、1993年の映画「マンハッタン殺人ミステリー」でもヒロインを務めています。
ダイアンの次にアレンが恋仲になり、長きにわたり、アレン作品でヒロインを務めたのが、ミア・ファローです。
ミアは1982年の映画「サマーナイト」から1992年の映画「夫たち、妻たち」まで実に11本もの映画に出演し、映画「カイロの紫のバラ」ではゴールデングローブ賞、英アカデミー賞を獲得し、コメディアンヌとしての才能を発揮しました。
その後も、映画「マッチポイント」「タロットカード殺人事件」「それでも恋するバルセロナ」と続けて出演したスカーレット・ヨハンソン、映画「それでも恋するバルセロナ」「ローマでアモーレ」のペネロペ・クルス、「ミッドナイト・イン・パリ」のマリオン・コティヤール、映画「マジック・イン・ムーンライト」「教授のおかしな殺人事件」エマ・ストーンなど、アレンの目に留まった女優たちはその後、実力派女優として大ブレイクを果たしています。
映画「カフェ・ソサエティ」では、クリステン・スチュワートとブレイク・ライブリーという旬な女優が競演しています。
クリステンはすでに実力派女優として頭角を現し始めていますが、ブレイク・ライブリーはこれからが勝負の女優なので、アレン作品に抜擢されたことで、ブレイクするのでは?と注目を集めています。
アレンの恋愛と映画の関係については、2011年のドキュメンタリー映画「映画と恋とウディ・アレン」という作品で色々語られているので、興味がある方はご覧になってみてください。
醒める?醒めない?陶酔するほど煌びやかな大人のおとぎ話
2009年の映画「それでも恋するバルセロナ」や2012年の映画「ミッドナイト・イン・パリ」などで「こうであったらいいな。」というような大人の夢物語を描いてきたウディ・アレンですが、映画「カフェ・ソサエティ」で描かれるのは、まさに夢の中の夢ともいえる極上のおとぎ話。
1930〜1940年代のハリウッドやニューヨークに集う上流階級のファッション、全編にわたって流れる往年のジャズナンバー、「片思いは結核より多くの人を殺す」「片思いがあるからラブソングが売れる」など詩的な台詞の数々。宝石箱をひっくり返したようなゴージャスな世界観ながら、甘いだけじゃないアレンのシニカルな演出にうっとりしてしまいます。
特に、クリステンとライブリーの対照的な衣装対決は見もの。
物語前半のクリステンは秘書らしく、リボンやレースを合わせたガーリーなファッションで知的で可愛らしいヴォニーを表現し、物語後半、再びボビーの前に姿を現したヴォニーは、シャネルが本作のために特別に制作した胸元がざっくりと開いたエレガンスなドレスとハイジュエリーで、ボビーだけでなく観客をも前半とのギャップで魅了します。
対するライブリーは初登場シーンからゴージャス一点勝負。
1930年代に流行ったフェザーのヘッドドレスに深紅のスリップドレス、夜にキラキラと輝くシルバーのメタリック・ドレスと難易度の高いドレスをサラリと着こなしています。
物語前半のソックスにサンダルを合せるクリステンのビーチスタイルは、日本でもここ2年くらい流行っているので、この夏に真似してみてはいかがでしょうか?
往年のジャズナンバー「I Didn’t Know What Time It Was」や「The Lady is a Tramp」などにのせて映し出される、夢のようなウディ・アレン・ワールドを心ゆくまでご堪能ください。
齢81歳にして、“映画の魔術師”ウディ・アレンの集大成のような、これまでの作品のすべての良さが詰まった映画「カフェ・ソサエティ」。
映画「ミッドナイト・イン・パリ」を超える名作の誕生をお見逃しなく。
(文 / Yuri.O)