平成29年九州場所まとめ 大量休場、スキャンダル、そして若手と古参の奮闘
九州場所は、毎年11月に福岡国際センターで開催されていて、「1年おさめの九州場所」とも言われている場所です。今年の場合、いつもとはちょっと異なった15日間だったように思える人もいらっしゃるかもしれません。そこで、今場所で印象に残った出来事を5つに絞って紹介し、振り返ってみたいと思います。
今場所も関取の大量休場が発生
まず、この九州場所を象徴する出来事として、関取の休場力士が多く現れてしまったことがあげられます。初日を迎えた段階で、幕内では井筒部屋所属の横綱鶴竜関、貴乃花部屋所属の貴ノ岩関、木瀬部屋所属の宇良関の3人と十両で九重部屋の千代鳳関が先場所負った怪我が完治できない等の要因で休場しました。さらに場所中には、伊勢ヶ濱部屋所属の元横綱日馬富士関と関脇照ノ富士関、田子ノ浦部屋所属の横綱稀勢の里関と大関高安関の看板力士を担っている4人が休場してしまい、境川部屋所属の妙義龍関、春日野部屋所属の碧山関を加えると計10人の関取が何らかの形で休場したことになりました。取組結果を表示する電光掲示板の休場力士の欄が四股名で一杯になる光景が会場やテレビなどで見られ、寂しいと感じた相撲ファンも中に入るかもしれません。ちなみに碧山関は途中から出場しましたが、最終的には3勝8敗4休の成績により、負け越し9点で今場所を終えました。
この10人が休場してしまった要因としては、先述した怪我の未完治と後述する相撲界を揺るがす問題の2つが考えられます。特に前者について、先場所も同じような状況で全休したり、途中休場したりする関取が多く現れていました。この時は大関以上の力士では宮城野部屋所属の横綱白鵬関、稀勢の里関、鶴竜関、高安関、照ノ富士関の5人も休場し、大役を日馬富士関と境川部屋所属の豪栄道関の2人が担う形になっていました。これ以外にも幕内では碧山関、宇良関、境川部屋所属の佐田の海関、十両では木瀬部屋所属の希善龍関を加えて9人の関取が休場する異常事態でした。今回は、このような事態が再び起こったことになります。
このような形で休場を再発してしまう原因としては関取が大型化していることと完治するまでの時間が取れないことの2つが主なものと考えられます。
前者に関して、現在幕内力士の平均体重は160kgを超えており、20年程前と比べても20kgも重くなっています。体重が増えると立ち合いなどの際に力を与えやすくなるメリットがある反面、自分の体重で膝などを支え切れられなくなるなどした結果、怪我をしやすくなるというデメリットもあります。
後者に関しては、ここ数年の相撲人気の影響などで1年間に90日間行われている本場所に加えて行われている巡業など興行の数が急に多くなっています。この興行は基本的に参加せねばならず、休息の時間が結果的に少なくなることで、怪我をした場合、回復しきれないまま本場所に挑んだり、稽古や本場所で疲労などが原因で怪我をしやすくなってしまったりする可能性が高まります。
再び土俵外のスキャンダルが場所中に発覚
角界では10年ほど前に起きた暴行問題を皮切りに、大麻問題や八百長問題が次々と発覚した結果、平成23年には場所が中止したりするなどして半年間通常の開催ができなくなってしまう事態に陥るなど一時危機的な状況でした。それでも立ち直ることができ、今年はすべての場所で終日満員御礼になるなど相撲人気が復活して現在に至ります。
ところが、この場所が始まって数日後に10月に起こった暴行問題が発覚してしまい、場所中にも関わらず、相撲中継でもこの問題にかなりの時間をかけるなど影響が出てしまいました。報道で取り上げられている中心人物とされている貴ノ岩関は全休し、日馬富士関にいたっては、場所後に現役を引退してしまいました。
今後の状況によっては再び角界を大きく揺るがしかねない結果を招くかもしれません。
関取格における優勝力士の安定さが目立つ15日間
今場所の優勝力士は幕内では横綱白鵬関、十両では荒汐部屋所属の蒼国来関で共に14勝1敗の成績で、幕内では14日目に、十両では13日目に優勝が決定したため、千秋楽を待たずしての優勝となりましたが、実質後半戦からは独走に近い形になっていました。
まず、白鵬関の場合は序盤から安定して白星を掴んでいき10日目まで全勝するなど、先場所休場したとは思えないような復活ぶりを見せました。この翌日に自身の判断ミスなどから尾車部屋所属の関脇嘉風関に敗れ、13日目での伊勢ヶ濱部屋所属の宝富士関戦では2度体勢を崩すなどピンチに追い込まれる場面もありましたが、翌日の追手風部屋所属の遠藤戦に完勝して40回目の幕内最高優勝を決めました。
蒼国来関の場合は、7日目に伊勢ヶ濱部屋所属の照強関に敗れてしまいますが、そこから立て直すことができ残りをすべて勝つことができました。その結果、後を追っていた錣山部屋所属の阿炎関ら3人と星の差を徐々に広げていき、13日目の地点で差が3つになったことから自身初の十両優勝が決まりました。
ちなみに、幕下優勝は春日野部屋所属の栃飛龍、三段目優勝は尾車部屋所属の友風、序二段優勝は武蔵川部屋所属の庄司、序ノ口優勝は佐渡ヶ嶽部屋所属の琴誠剛で、いずれも7戦全勝の成績でした。
場所を盛り上げた八角部屋コンビと前頭筆頭力士
先述した通り、幕内では白鵬の優勝で終わりましたが、好成績を収めて場所を盛り上げた力士が4人います。それは、八角部屋所属の北勝富士関、隠岐の海関と今場所前頭筆頭を務めた貴乃花部屋所属の貴景勝関、片男波部屋所属の玉鷲関です。特に八角部屋の力士は優勝争いを14日目まで伸ばしてくれました。成績は4人とも11勝4敗の好成績を収め、準優勝を果たしたことになります。
まず、八角部屋の力士の展開について紹介します。隠岐の海関は前頭12枚目の番付だったため、幕内上位との取り組みが編成されたのは優勝争いに名前を刻んだ終盤に入ってからですが、2日目から、佐渡ヶ嶽部屋所属の琴勇輝関に敗れるまで7連勝をし、敗れた翌日以降も着実に白星を重ねていきました。13日目の地点で北勝富士関と共に、2敗力士の1人として優勝争いに加わることができました。この後は上位との取り組みに敗れて優勝を果たすことができませんでしたが、敢闘賞を獲得しました。北勝富士関は前頭3枚目だったため、三役以上の力士と総当たりを行う幕内上位の力士として15日間取りました。おっつけを用いた攻めが白星に繋がる内容が多くあり、終盤までに敗れたのは白鵬関と湊部屋所属の逸ノ城関だけでした。彼も、隠岐の海関同様、終盤に連敗して場所を終えましたが、先述の攻め方が評価されて、場所後に技能賞を獲得できました。
同じ11勝を挙げた前頭筆頭の2人は対象的に終盤の2日間は連勝だったため、白星を上積みして場所を締めたことになります。特に貴景勝関の場合は、日馬富士関と稀勢の里関の2人の横綱に土をつけたことなどが評価されて場所後に殊勲賞を獲得できたので、それに花を添える形になりました。玉鷲関も稀勢の里関など上位から多くの白星を獲得しましたが、三役を何場所も経験している実力者であることから三賞を取れなかったと考えられます。
これら2人の力士は来場所、小結に昇進する可能性が高くなっています。
勝ち越すことの難しさを証明した最年長関取
この九州場所において幕内の土俵を盛り上げたのは若手だけでなく、古参力士の1人も大いに加わってくれました。それは伊勢ヶ濱部屋所属の安美錦関です。
安美錦関は昭和53年10月に青森県深浦町で生まれ、現在39歳で関取の中では最年長の力士です。平成27年秋場所後に現在、友綱部屋の師匠を務めている元旭天鵬と田子の浦部屋で西岩親方として後進の指導に当たっている元若の里が引退したことで最年長関取になりました。
安美錦関は高校卒業後に角界に入門し、ちょうど3年後に関取の座を掴み、21歳だった平成12年名古屋場所で新入幕を果たしました。入幕後は昨年の夏場所中にアキレス腱を断裂する大怪我を負って途中休場するまでの16年半にわたって幕内の土俵に立ち続け、特に30歳前後にあたる、今から10年前には関脇で2場所通算18勝を挙げて大関昇進へリーチをかけたり、幕内上位に定着した3年間で殊勲賞などの三賞を5回と、金星を4回それぞれ獲得したりする大活躍を見せたこともありました。
先述した大怪我の影響は響き、復帰できたのは2場所後のことで番付も十両下位からのスタートでした。それでも少しずつ実力を発揮できるようになり、怪我から1年後に10勝の好成績を2場所連続であげて遂に、この九州場所で1年半ぶりに幕内の土俵に帰ってきました。ちなみに、この時は2回とも十両で同点優勝でした。
この九州場所ですが、39歳で迎えたのにもかかわらず、安美錦関は序盤5日間、若々しく前に攻める相撲などを見せて全勝の好スタートを切りました。勿論、相手をヒョロリとかわして白星を掴む、安美錦関らしい心理戦的な内容も見られました。こうして10日目に春日野部屋所属の碧山関に勝って勝ち越しに王手をかけました。
ただ、後半に差し掛かると体力的な疲れなどが見え始め、11日目に時津風部屋所属の正代関に敗れてから4連敗を喫し、勝ち越しは厳しいのではないかという声も出始めました。
そして迎えた千秋楽では対戦相手で九重部屋所属の千代翔馬関に対して、序盤に近い内容を見せつける形で下し、勝ち越すことができました。この直後に受けたインタビューで号泣して喜ぶ様子が映し出され、感動を与えるものとなりました。この時に勝ち越すことの厳しさを話していました。この15日間の内容が評価されて三賞の1つである敢闘賞も獲得することができ、安美錦関にとっては最高の形で終えることができたのかもしれません。
ちなみに、幕内の土俵では懸賞金が付くようになっています。安美錦関に対しても15日間全て懸賞がかけられ、勝った相撲では全て、これを獲得しています。
まとめ
このように、今年の九州場所では場所中にスキャンダルが発覚したり、先場所と同じく関取の休場力士が相次いで現れたりする異常事態の中で開催されました。
関取の土俵では千秋楽を待たずして優勝が決まりましたが、場所を最後まで盛り上げた力士がいたり、年長力士の頑張りが話題になったりしたことから例年通りの面白みや楽しみを感じた方もいた場所ではないかと思います。
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