ヒト、酒に出会う。始まりは旧石器時代の森の中?

教えてくれたのはお猿さん

昔、山に分け入った樵や猟師が、良い香りが流れて来るのに気付きます。「はて、何のにおいじゃ」と元をたどってみると、木の窪みになにやら水が溜まっています。

手ですくって口に含んでみるとあら不思議、得も言われぬ香りに思わずごくりと飲み干すと、その咽喉越しの良さ。ついつい二口三口と飲み続けるうちに、日ごろの憂さも忘れてすっかり良い気分になり、そのまま眠ってしまいましたとさ。

これが昔話にある「猿酒」のお話で、サルが採って来た果物を木の窪みに置き忘れ、日にちが経つうちに自然に発酵し、天然の美酒に変じたと言うわけです。

案外本当かもしれない猿酒伝説


これから「お酒とヒトの物語」を始めるのですが、まず押さえておきたいのは「ヒトはいつお酒と出会ったのか」ですね。

お酒が出来る為には、原材料が発酵の過程を経て、エタノールを生成することが必要です。この発酵過程をどうやって学んだのか?

ここで登場するのが「猿酒」です。

「おとぎ話でしょ」と言う人もいますが、この猿酒伝説が案外バカにならないと思うのは、数年前に話題になった酔っぱらいリスさんの動画です。この動画のリスは、放置され自然発酵した林檎を食べて、酔っぱらってしまいました。もうフラフラ、得意の木登りも出来ない有様。

自然界で本当にこんなことも起こるんだ、と思いながら映像を見ていました。

放置された果物や蜂蜜が自然発酵して、良い香りを放っている現場に行き合わせる。古代の狩猟・採集生活を送って居た頃の人間なら、そんな機会は何度も有ったでしょう。

そのころの人間は、口に入りそうなものに巡り合えば見逃したりはしません。用心しながらも取り敢えず口に含んでみる。

ヒトとお酒の出会いとして、充分考えられる出来事ですね。

ヒト、酒を造り始める


「魅力的な味わいの水」の存在を知ってしまったヒトは、自分たちの手で作れないものかと早速その方法を探り始めます。

このあたりの行動、まことに素早いものがあります。

猿酒の例でもわかるように、実はお酒とは案外簡単に出来るもの。

例えばヤシ酒ですと
1.ヤシの木の幹に傷をつけ、そこから染み出る樹液を集める。
2.それを容器に入れ、そのまま2~3日放置する。
3.空気中に浮遊する天然酵母の作用で、お酒が出来上がる。
基本これだけです。

同じ容器を繰り返し使うことで、発酵に係わる乳酸菌、酵母などの微生物を引き継ぐことも出来ます。この酒造方法は、現在でも東南アジアやアフリカなど幅広い地域で行われています。

蜂蜜酒(はちみつしゅ、ミード)の場合は、蜂蜜を2倍ほどの水で薄め、これも天然酵母の力を借りるためにそのまま放置。夏場で2〜3日、冬場でも1週間ほど発酵させると、名前から連想するほどではありませんが、甘めの美味しいお酒が出来上がります。

このようにある程度の糖分を含む糖液(濃度5%~15%がめやす)と、一定の温度(20度前後)を保たせればお酒は出来るのです。

探求心の強い我らのご先祖なら、これ位のことはすぐに見つけてしまったでしょう。

念のためですが、現在日本の法律は、許可なくアルコール度数1%を越えるお酒を造ることを禁じています。

古いお酒いろいろ

これまで見て来たようにお酒の起源そのものは、ひょっとすると人類の起源よりも古いかもしれません。では、人類が意識して作り始めた最初の頃のお酒には、どんなものが有るでしょう。

中国では、発掘された陶器のかけらの化学分析から、紀元前7世紀ごろに米、ハチミツ、果物を原料としたお酒が、造られていたことがわかりました。

メキシコ、ティオティワカンの遺跡からは、プルケという乳白色のアルコール飲料を、人々が愛飲していた痕跡が見つかっています。これはリュウゼツランの樹液から抽出したもので、人体に必要なビタミンやミネラルを含んでいます。

エジプトのファラオ、スコルピオン1世の墓からは、樹脂やミント、セージなどのハーブを含んだワインが発見されました。

このように世界各地で人々は、ヤシ酒、蜂蜜酒以外にも様々なお酒を造り始めました。その中の1つに間違いなくあげられるものがビールです。

ビールが愛された理由


ヤシ酒は、熱帯地方のヤシの木が生えている所でなければ作れません。ワインも、ブドウが収穫できる地帯でなければ話になりません。

しかしビールの主原料は、世界中の広い地域で手に入れることが出来ます。他にもビールが愛され現在まで飲み継がれてきたのには、いくつか理由があります。

まず比較的簡単に作ることが出来、製造設備もそれ程大規模な物は必要としません。今でも各国の各地方で、地ビールが作られていますね。

どこででも手に入る材料で作り方も簡単なら、当然値段も安く出来ます。庶民が手に入れやすいお酒でした。

アルコール度数も低く、安全な飲み水を手に入れるのが難しかった時代、飲料水の代わりとして飲める貴重な飲み物でした。

古代メソポタミアやクルディスタン地域、エジプトでも古くからビールが作られています。

ロンドンのセント・バーソロミュー病院では、1687年から1860年までの間、病院の醸造所でビールを作っていました。醸造所って医療設備だったのでしょうか?
そして患者1人当たり1日に、3パイント(約1.8リットル)配っていた記録があります。

今回はヒトとお酒の出会いから、ビールの作り初めまでをご紹介しました。次回は現代まで受け継がれたビールの歴史について、お話ししたいと思います。