ビールはどこで飲むべきか?パブその生い立ちと歴史
ビアホールやビアガーデンも良いけど、やはりパブには特別な思い入れがある、そんな方も多いでしょう。昔ながらの伝統を守るパブで1杯やってみたいけれど、1人ではちょっと敷居が高い。そんな方々向けに最近では「パブ巡り」を組み込んだツアーも発売されています。地元を知り尽くしたガイドの案内付きなら安心ですね。
ところで皆さんご存知でしょうか?実はこのパブ、結構な歴史を持っているのです。
パブの原点
西暦50年頃グレートブリテン島に進出した古代ローマ人は、さっそくお得意の道路建設に取り掛かりました。
道路が開通すれば当然それを利用する人の往来が始まり、人が集まって来ればお金も集まるのが世の常、そのお金を当てにする人も集まってきます。一方旅人の側も腹を満たし、喉の渇きを癒し、寝る場所の提供を求めます。
お互いの思惑が一致したところで、街道沿いには飲食や寝床を提供する店が現れ、それが「パブリック・ハウス(公共の家)public house」と呼ばれるようになりました。やがてブリック・ハウスは街道沿いだけでなく、都市部にも広がって行きましたが、これが現在のパブへとつながっているのです。
イギリス人は外食好き?
1577年にある調査が行われました。それによるとイングランドとウェールズ合わせて19,759軒の宿屋、食堂、居酒屋が有りましたが、当時の総人口が370万人なので、187人に1ヶ所の飲食を提供する店が存在したわけです。それだけの利用者が有ったのでしょうか、やって行けるのかと心配したくなる数字です。
1603年イングランド王ジェームズ1世の治世当時、こんな法令が議会を通過しました。「宿屋、食堂、居酒屋の正しい使い方は、各地を旅行する際の保養、息抜き、宿泊、そして大量の食糧を携帯出来ない者への供給である」
わざわざこんな法令出しますかねぇと思いますが、この法令には序文が有りました。
「宿屋は不道徳で怠惰な者をたむろさせ、時間とお金を泥酔状態になるために使わせる場所ではない」当時の社会状況が思いやられます。
やがてビクトリア朝になると多くの醸造業者が、生産したビールを他者に卸すのではなく、自身で直接売り出すようになりました。この小売店“直営酒場(タイドハウス)”のアイデアは、醸造業者同士の競争激化がもたらしたものですが、この方が確実な売り上げが期待できたのです。
醸造業者は直営酒場営業の為に既存のパブリック・ハウスを買い取ったり、新しく作ったりしましたが、新築の場合は結構お金を掛けた贅沢な造りだったとか。
産業革命の影響
18世紀の半ばに興った産業革命で、都市には農村から大量の労働者が年に流入して来ました。農業と違って始業時間から就業時間までを労働に従事し、その後は休息と1日が明確に区切られた工場労働者たちが、休息時間を過ごす場所が必要になりました。
そんな労働者たちの溜まり場となったのが、パブリック・ハウスから飲酒サービスの部分を抜き出して発展させた “酒場”です。
やがて高級な酒場はサロン(saloon, saloon bar)と呼ばれ、大衆向けの酒場が19世紀頃から略してパブと呼ばれるようになりました。成り立ちからもわかるように最初は都市部で急速に発展して行きます。
しかし肉体労働者たちの「たむろする場所」として次第に中産階級の疎んじるところとなり、禁酒運動の批判にさらされることとなりました。
イギリスの禁酒運動
ビクトリア朝時代19世紀半ば、社会で大きな力を持つに至った中産階級は労働の神聖さを説き、自助努力、節約、勤勉をモットーとしました。彼らの目から見れば、厳しい肉体労働の疲れを癒すための労働者の過度な飲酒は、許すべからざるものと映ったのです。
1830年には禁酒協会が発足し、ビクトリア女王自らがその後援会長におさまりました。しかしさすがに英明な女王です。庶民に「禁酒」を強いることは弊害の方が大きいと考え、「節酒」を説きました。
その後も飲酒の害を非難する声は高まって行き、全国的な禁酒大会も開催され、禁酒運動は国民規模のものに広がって行きます。
しかしこれだけの規模の運動が繰り広げられたにも関わらず、パブが衰退することはついにありませんでした。1日の厳しい労働の疲れを癒す場所として、パブに変わる施設は誕生していなかったのです。
パブの近代化
20世紀を迎えても第2次世界大戦が終わるまでパブは、旧態依然としたものでした。ようやく近代化の必要に気付いた経営者がサービスの向上に乗り出したのは1960年代に入ってからでした。
普段あまりビールを飲まない人たちを呼び込もうと、ビール以外の食事や娯楽にも力を入れ、家族向けにはキッズサービスも盛り込みます。
禁酒運動の大波も潜り抜けて生き残ったパブですが、世界的な飲酒の減少傾向には逆らえず、特に地方都市での衰退に歯止めをかけられずにいます。免許法の規制緩和による24時間営業の許可もあまり効果はありませんでした。
パブの現況と今後
醸造業者も“直営酒場(タイドハウス)”の運営から手を引き、パブをチェーン展開する「パブカンパニー」と呼ばれる業者が、小売業の大半を担っています。
2大パブカンパニーは、パンチ・タバーンとエンタープライズ・インでそれぞれ6,000軒と上回る店舗を展開しています。
スーパーで簡単に手に入る安いビール、飲酒以外の娯楽の多様化、飲酒運転の法的規制強化、禁煙運動の高まりなどがパブの凋落に追い打ちをかけました。
明るい材料としてはクラフトビールの復権と、観光客のパブ人気ですが、古き良き大英帝国の香りのするパブには、これからも頑張ってもらいたいものです。
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