本に書かれたビール、歌に歌われたビール、映画に描かれたビール
作家とビール
文学作品とアルコールと言うよりは、その作品を執筆した作者とアルコールは、洋の東西を問わず親密な間柄だったようです。
ヘミングウェイとフローズン・ダイキリは切り離せませんし、日本でも一昔前の無頼派作家たちは、過度の飲酒に身を持ち崩し、あたらその才能を花開かせることも無く消えて行った人も多かったとか。
ことビールに関して言えば、ウィリアム・シェイクスピアはエリザベス朝時代地元の居酒屋にせっせと通い、エールに親しんでいました。また自身の作品の中にも登場させています。
“冬物語”の中では、登場人物のオートリカスに「1クォートのエールは王様の晩餐と同じ」と言わせていますし、ヘンリー5世では「1杯のエールの為なら名誉なんかくれてやる」と宣言しています。
この頃の劇場ではどこでもビールを売っていて、1613年にグローブ座が火事で焼け落ちた時には、消火のためにビールが注がれたとか。度数の高いお酒なら逆効果じゃないの?と思いますが、ビールなら役立ったのでしょうか。
日本でも
明治時代に日本へ入って来たビールですが、作家先生たちは早速自分でも味わい自作にも登場させます。
夏目漱石の「吾輩は猫である」には、主人公の中学英語教師苦沙弥先生が、近所の金満家から贈られたビールを突き返す場面が描かれています。一方教え子の多々良三平が手土産にぶら下げて来たビールは、有難く頂戴していますが、この飲み残しをうっかり放置して置いたために“吾輩猫” が舐めてしまいました。
“吾輩猫”は酔っぱらって良い気持ちになりふらふら歩くうちに、大きな水瓶の中へぽちゃんと落ちてしまいます。がりがりがりがり水瓶を引っ掻いて、なんとか脱出しようと焦りますが、とうとう疲れ切って「これはわが身の力ではどうにも上がれぬのであろう」と観念します。
そして「太平は死ななければ得られぬ」と悟り、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏と念仏を唱えながら死んでしまいました。ビールは“吾輩猫”の死因に関わる重要アイテムとしての扱いです。
石川啄木は『雲は天才である』の作中で「苦学生の口には、甘露とも思はれるビールの馳走を受けた」などと書いていますし、近年では村上春樹でしょう。『風の歌を聴け』の作中で「ひと夏に25mプールぶんのビールを飲み干した」との会話があります。
歌に歌われたビール
すぐに思い浮かぶのは“ビヤ樽ポルカ(BEER BARREL POLKA)”の軽快なメロディです。チェコのヤロミール・ヴェイヴォダが、1929年に作曲した“モドジャニーのポルカ”が基になっていますが、作曲された当時は曲のみのインストゥルメンタルでした。
第2次世界大戦がはじまった頃、『樽のお庫出しだ(Roll out the barrel・・・)』で歌い始める英語歌詞が付くと、連合国側で最も歌いはやされる歌になりました。軽快で景気の良いメロディは、ジョッキ片手の大騒ぎのBGMに持って来いです。
ブロードウェイ・オペレッタの“学生王子The Student Prince”ではセレナードが有名ですが、劇中で歌われる「ジョッキを掲げてビールを飲み干せ」で始まる“The drinking song”もお忘れなく。この歌の場面で主人公のカール・ハインリッヒが、学生仲間にはやされながら大ジョッキの一気飲みをやらされますが、どこの国でもこういう事はやるのですね。
しかしビールで一番馴染の有る歌と言えば、CMで流される曲ですかね。
映画の中のビール
作家に負けず映画人もビールがお気に入りですが、リチャード・バートン、ピーター・オトゥール、リチャード・ハリスの御大3人はビール好きとして有名です。
007シリーズでは「007スカイフォール」の作中でボンドがいつものマティーニではなく、ハイネケンビールを飲む姿が物議をかもしました。この時ハイネケン社は、映画制作会社と4,500万ドルのスポンサー契約を結びましたが、その内容はこうでした。
Mr.ボンドが映画の中で、ハイネケン社のオランダスタイルのラガービールを飲むこと。ボンド役のダニエル・クレイグが、同社のテレビCMに出演すること。アメリカでのプレミア上映に先立って、ダニエル・クレイグのシルエットが描かれた限定版の瓶ビールを発売すること。
ボンドよ、金のために己の流儀を売ったのかって訳です。
もう1本『ワールズ・エンド』、あまりヒットはしませんでしたが、作中でビールを取り上げるならこう言う風に描いてもらいたいと思わせる映画です。
筋書きはと言うと、「一晩で街中のパブ12件を、1杯づつビールを飲みながら全部まわる」学生時代に達成できなかったこの挑戦に、故郷の街ニュートン・ヘイブンに戻って来た中年男5人が再挑戦する物語。
男たちの一晩の足取りを追いながら、その間に夢破れた5人の卒業後の人生模様を挟み込みつつ、学生時代の葛藤や美しい思い出も描き・・・と立派なヒューマンドラマにも仕立て上げられそうです。
が、しかし作中の共演者は“地球を侵略に来た宇宙人”でした。
1軒目から3軒までは、ちょっとしたイザコザもありながら無事に過ぎましたが、4軒目で事件が起こります。仲間の1人がトイレで襲われたのです。それを皮切りに、どうにも地球の生き物とは思えない者たちに襲われ、ついには仲間から犠牲者も出てしまいます。気が付けば街の住人たちは全員が敵状態。しかしそれでも初志貫徹、追い掛け回されながらもパブ回りを止めようとしない。このあたりがどうにも可笑しいのです。
その後彼らはどうなったのか?最後のパブまで行きつけたのか?無事に街から脱出できたのか?DVDも発売されていますので、興味を持たれた方はご覧下さい。
ビールが実に美味しそうに描かれています、もちろん有名作品のパロディもあちこちにちりばめられていますので、それもお楽しみに。
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