ビールと社会、あのヒトも飲んだ、このヒトも飲んだ

みんなビールが好きだった

ビクトリア女王はビールがお気に入り&飲み助の良き理解者でも有りました。イギリスがアメリカのように「禁酒法」にまで突っ走らず、「節酒の勧め」にとどまったのは、ひとえにこの賢明な女王様のおかげです。

女王自身は、ボルドー産の赤ワインにウィスキーを入れたものを飲む習慣をお持ちでしたが、国民に向けてはこうおっしゃっています。「国民に良いビール、安いビールをたっぷり与えなさい。そうすれば革命など起こらないでしょう」と。

ミュンヘンにあるビアホール“ホフブロイハウス”は、ドイツの政治文化に置いても、重要な役割を担って来たと自負している店です。また、モーツァルトやレーニンを、常連客として持っていたと誇らかに宣言もしています。

しかしこの店は、アドルフ・ヒトラーとナチスの支持者たちが政治演説を行い、客をもてなしたホールの一つで有ったことも事実なのです。

エイブラハム・リンカーンは、こう述べたと伝わっています。「私は国民を深く信じている。真実を知らされれば、彼らは必ず国家の危機に立ち向かうだろう。大切なのは国民に事実を知らせ、ビールをもたらすことだ」

う~ん、途中まではともかく、最後の一句は本当に言ったのかな?とも思いますが。

雷雨の中で凧を揚げ、雷が電気であることを証明したベンジャミン・フランクリンは、「ビールは神が我々を愛し、幸せを願っておられるあかしだ」と生涯信じていたそうです。

厳格をもって知られる宗教改革者マルチン・ルターですが、こんなことも言っています。

「ビールを飲む者は夜早く床に着く。良く眠る者は罪を犯す時間を持たない。当然天国へ行ける。よってビールを飲む者は救われるのだ」これも一種の三段論法ですかねぇ?

ご存知シュワちゃんアーノルド・シュワルツェネッガーは、「ミルクを飲むのは赤ん坊のうち、一人前の大人ならビールだろ」って、あおるなよ。

居酒屋の看板

数世紀前のイギリスでは、店の前に常緑樹の枝を束ねたものが架かっていれば、ビールにありつける印でした。一般人はここで喉の渇きを癒したのです。このあたり、新酒が出来たことを知らせる日本の杉玉を思わせますね。

時が経つにつれ、本物の木の枝に替わって看板が登場します。文字の読めない者でも、その店でビールを飲めることがわかるように、初期の看板には常緑樹を図案化したものが描かれました。やがて居酒屋には“屋号”が付き、その屋号をデザイン化したものを看板に描くようになります。

イギリスのパブの屋号にはユニークなものが有りますが、その店が出来た時の歴史を物語っていたりします。例えばゴルフ発祥の地として有名な、セント・アンドリュースにあるパブ“Niblick”、これは9番アイアンの古風な呼び方です。

“トルコ人の頭”亭や“サラセン人の頭”亭は、1095年から1291年にかけてたびたび行われた十字軍遠征で、騎士たちが戦勝品として持ち帰った人体の頭部に由来するものでしょう。

良く使われる“雄鶏”の文字が入った名前は、闘鶏が1835年にイングランドとウェールズで禁止されるまで、その店の闘鶏場で行われていた証です。

ビールと宣伝

居酒屋は看板を掲げて客を呼び込みましたが、印刷技術の発達に伴い、もっと多くの人に訴えかける色鮮やかなポスターが作られるようになりました。

イギリスではイラストレーターのジョン・ギルロイがギネスと交わした契約の元で、数々の傑作ポスターを発表しました。熱帯鳥のオオハシの嘴の上に、ちょこんと乗っかったグラスの図、コピーは「Lovely day for a Guinness」、アシカが探検隊員とおぼしき男性にビールをサービスしている図、コピーは「My Goodness My Guinness」。こんな古き良き時代のポスターを目にされたことは無いでしょうか。

日本ではひと昔前まで夏になれば、ジョッキ片手の水着美女がポスターの中から微笑みかけて来ましたが、最近見なくなりましたね。

ビールとスポンサー

スポンサーであれば支払った金に対して大きな効果を期待したいもの。それには商品を、イメージに合った適切なイベントと結びつけるのが重要です。シャンパンや高級ワインとビールでは対象が違います。

ビール会社は昔から、労働者階級(ブルーカラー)のスポーツと言われたサッカーや野球、ホッケー、そして自動車レースのスポンサーを多く努めてきました。

アメリカではバドワイザーが、販売量と投入できる宣伝費で群を抜いています。この会社はMLBの公式ビールスポンサーであり、30チームの内23チームとスポンサー契約を結んでいます。

アメリカのスポーツライター、ピーター・リッチモンドは野球についてこう述べています「アメリカの中心にあるスポーツはただ一つ、野球さ。そしてアメリカ人の心の奥深くに流れている飲み物もただ一つ、ビールだ」と。

また30年近く夏季、冬季オリンピックを通じて、アメリカオリンピック委員会(USOC)の長期的な公式パートナーでもあります。サッカーにも手を伸ばしていて、国際サッカー連盟(FIFA)ともパートナーシップ契約を結んでいます。

アメリカでのバドワイザーのライバルであるミラークアーズは、NASCAR(全米自動車競争協会、National Association for Stock Car Auto Racing)と継続的な関係を築いています。ミラーライトはNASCARレースでの公式ビールであり、いくつものトラックレースのスポンサーでもあります。

ミラークアーズのメディア&マーケティング担副社長は「NASCARレースのスポンサーの立場は重要です。このレースを愛する人は、ビールの愛好家でもありますから。スポンサーとして、長期にサポートすることが大切なのです」と、述べています。