ビール大国ドイツ。バイエルンの厳格、ミュンヘンの寛容
我々日本人がビールの国と聞いて真っ先に思い浮かべるのは、「ジャガイモとソーセージとビールの国」ドイツですね。
季節になれば、ミュンヘンのビール祭りオクトーバーフェスト(Oktoberfest)のニュースがテレビから流れてきます。
赤ら顔、もじゃもじゃ髭のおじさんが大ジョッキをグイッとあおって、手の甲で髭にくっついた泡を拭う、良い景色です。
最初はやはり修道院
ドイツのビール醸造については、ローマ時代の文献にも記録されていますが、始まりはやはり他のヨーロッパ諸国同様、修道院からでした。
もっとも記録に残っていない時代のこととなると、古代青銅器時代には、すでに現在のドイツ領に当たる地域でビールの製造が始まっていたようですが。
バイエルンのヴァイヘンシュテファンにある、ベネディクト派の“ヴェルテンブルク修道院”。ここは1050年から現在に至るまでビール醸造を続けている、世界最古の修道院醸造所として知られています。
この修道院はビール造りの伝統だけではなく、併設された数百人収容のビア・レストラン、そこで味わえる“バロック・ドゥンケル”でも有名です。深く濃い色をしたこの飲み物は、コクと香ばしさと爽やかな飲み口を併せ持ち、ナッツやチョコレートを思わせる風味も嬉しいものです。
ドナウ川に面した白砂の船着き場からは、尖塔と赤い屋根、緑の木々に囲まれた修道院が目の前です。世界中のビール好きが、聖地巡礼として1度は訪れたいと願っている場所でもあります。
ビール純粋令、バイエルンの厳格な定め
「バイエルン純粋令」とも呼ばれる世に名高いこの法律は、現在でも効力を持つ世界最古の食品関連法です。
1516年に、バイエルン侯ヴィルヘルム4世によって『ビールは大麦麦芽と水、ホップのみによって造られねばならない』との厳命が発せられました。ビール醸造が重要な産業として成長すること見越し、その品質を厳しく守らなければならないとの思いからです。
その後製法の研究が進み、1556年には酵母の使用も許可されました。
今日では法令も改正され、下面発酵の場合原料は純粋令通りですが、上面発酵では小麦麦芽とライ麦麦芽の使用も認められています。
初期の純粋令が「使用できるのは大麦のみ」と定めたのは、小麦は主食であるパンの原料であったため、ビール造りに転用されパン不足に陥ることを危うんだからです。
ドイツの広い地域で守られている純粋令はもっと緩やかで、外部からの砂糖の添加許可など「バイエルン純粋令」に対しての修正も認められています。
これらの規則は、ドイツのビール酒税法で正式に法制化されています。
ビールの街ミュンヘン
ビール醸造の街として、知らない者は無いバイエルン州の古都ミュンヘンですが、1269年には早くも最初の醸造所が設立されています。
アウグスチネル・ブロイ醸造所は、現在も営業を続けているミュンヘン最古の醸造所として知られますが、その歴史は少なくとも1328年までさかのぼることが出来ます。
現在ミュンヘンの醸造所の大半は、国際資本の大企業に買収・合併されてしまいましたが、アウグスチネル・ブロイ醸造所は、今もその独立を守っています。
もう1ヶ所独立を守っているホフブロイ醸造所は、バイエルン州政府が直接その経営を行っています。
ビール飲みの天国、オクトーバーフェスト
こんなビールの街ミュンヘンで、毎年秋に開催されるのがヨーロッパ最大のビール祭り、オクトーバーフェスト(Oktoberfest)です。
1810年10月の、バイエルン王国王太子ルートヴィヒの結婚式を祝う祭典が始まりと言われますが、もともとその年のビール醸造シーズンの幕開けを祝う祭りは、あちこちで開かれていたのです。むしろ結婚式の方がそれに乗っかったと言うか。
ともかく“祭りの口実”が出来れば後はそれを発展継続させるだけです。
緑地を整備し競馬を開催、ブランコや木登りも楽しめるようにし、陶器、銀製品、装飾品などを目当ての福引と、知恵を絞って盛り上げにかかります。
1819年からはミュンヘン市当局が祭りの主催者となり、1835年には結婚25周年のパレードも行われました。1850年以降は、このパレードが毎年のメインイベントへと成長しました。
現在では期間もまだ暖かな9月に始まり、初日は正午の12発の礼砲と共に、ミュンヘン市長の「樽が開いた!」の叫びで祭りの開催を宣言します。
こうしてビール好きの楽しみとしてすっかり定着したお祭りですが、毎年600万人から700万人が世界中から押しかけ、600万リットルものビールを飲み干します。
同時に巨大なビールテントの中では、大量のブラートブルスト(ソーセージ)、ザワークラウト、オックステールにヘンドゥル(鶏の丸焼き)も彼らのお腹に収まります。
男性ならレーダーホーゼ(革製の半ズボン)、女性ならディアンデル(胸元を強調したドレス)の民族衣装に身を固めて、今年あたり参加してみては如何です?
ドイツの現状
かつてのドイツは、アメリカに次いで世界第2位のビール生産国でしたが、現在ではトップは中国、次にアメリカ、以下ロシア、ブラジルと来て5番目の地位に甘んじています。人口の絶対数には勝てないのですね。
生産量の低下に伴い、消費量もこの数十年間は減少の一途を続け、過去30年間でほぼ3分の1にまで落ち込みました。
2,500件あった醸造所は半分に減り、Bruereisterben(醸造所の死)と言う言葉さえ登場しました。19世紀にはベルリンだけで700ヶ所あった醸造所は、現在では10数件と言う有様です。
しかしここへ来て、市場があまりにピルスナービール一辺倒だったとの反動でしょうか、ドイツ古来のビールへの関心が高まって来ました。
バイエルンで人気のヴァイスビール(白ビール)、これは小麦麦芽を最低50%使用することが法律で定められています。
ドイツ固有ビールのケルシュは、爽やかで芳醇、ホップの効いた黄金色のビールです。1250年にはすでにケルンで造られていた記録があります。
ボックビールはブロンズ色をした強いビールで、伝統的に冬に楽しむビールとされています。
他にもヘレス、デュンケル、ドッペルボックなど個性的なビールが、息を吹き返しています。
これらクラフトビールの今後の活躍を期待したいものです。
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