音切れしないBluetoothを目指す試み。aptX Adaptive

2019年9月21日

aptX Adaptiveの情報ページ

スマートフォンなどの心臓部であるチップのSoC開発の大手クアルコムは、Bluetoothの音声コーデックaptXシリーズの開発メーカーでもあります。

既にCDクオリティレベルで高音質なaptX、さらに音質面で上を目指してハイレゾ音源相当の伝達も可能にしたaptX HD、ゲームや動画視聴に適した音声の遅延が少ないaptX Low Latencyの3方式を実用化しています。

これに加えBluetoothの弱点である音声の途切れ、これを軽減しようとする試みを盛り込んだコーデックの開発を行ないました。

今回はクアルコムがBluetoothでの音切れなしを目指す取り組みの成果の一つ、aptX Adaptiveをご紹介します。

カギは「Adaptive」

名前にもこの単語が含まれているとおり、aptX Adaptiveの仕組みのカギは「Adaptive=適応性」にあります。

周囲の状況に合わせて音声信号の通信をリアルタイムで調整していくところにこの仕組みの最大の特徴があると言っていいでしょう。

より具体的に記すならば、スマートフォンがゲームや動画視聴に使われている状態ならばaptX Low Latencyに近い処理と通信データ量・音質を選ぶ、周囲の電波状況が良好で音の途切れが起こりにくい状態ならば通信のビットレートを引き上げてaptX HDに近いかそれを上回る音質で伝送を行なう、といったイメージです。

まさに「Adaptive」に状況に合わせて音声データの送信方式を変化させることが出来るのがこの仕組みのキモになっています。

高音質モード時にはaptX HDに匹敵する音質

aptX HDでは24bit/48kHzまでのハイレゾ音源の入力に対応していて、圧縮による劣化はあるものの従来のCDクオリティレベルのコーデックよりも一段高い音質を実現します。

aptX Adaptiveでも音質重視モードで動作しているときにはそれに近い音質が得られる仕組みです。

圧縮方式はその他のaptXシリーズと同様に、MP3などのような人間の聴感上の特徴を応用した「聞こえにくい音を優先して消す」タイプの圧縮ではなく、音の間引きを行なわないタイプの圧縮を行ないます。

さらに圧縮方式の改善により、aptX HDよりも低いビットレートで同等の音質を実現できるようになっています。

低遅延モードではaptX Low Latencyに迫る小さな遅延

aptX Low Latencyでは音声の遅延が最短40ms程度に収まる性能があります。

これは毎秒30コマの動画だと1フレームとちょっとぐらいの遅れになります。動画の動きよりも毎秒30枚ある画面一枚分と少しだけ音声が遅れるイメージです。

この程度の遅れだと唇の動きと声の出のズレにほとんど気がつかないとされています。

ただ、タイミングがシビアな音ゲーなどではこのレベルでも恐らくプレイに微妙な影響がありますね。そこは気をつけておいた方がいいと思います。

aptX Adaptiveが低遅延モードの動作に入るとこれに近いレベルの音の遅れで済むようになります。

遅延はワーストケースで70ms程度と見積もられています。これは毎秒30コマ表示の動画だと2フレーム分ちょっと。敏感な人だともしかするとズレに気づくかもしれませんが、通常は動画視聴は問題がないと思います。

この遅延にはスマートフォンがSoCにクアルコムのSnapdragonシリーズを採用しているかどうかも微妙に影響を及ぼすようですので、今後はBluetoothの性能にスマホの心臓部が与える影響が製品を選ぶキーワードの一つになっていくのかもしれません。

Bluetoothの電波は逃げられない

最近のWi-Fiは比較的電波の状況が空いている5GHz帯に引っ越しつつあります。ですが屋外で使うことも多いBluetoothは混み合っている2.4GHz帯の電波からは逃げられません。

このため周囲の電波状況を見つつ動作を最適に保とうとしてくれるタイプのコーデックは今後重要度を増していくかもしれません。

クアルコムが先陣を切った「Adaptive」なコーデック、フォロワーが出るのかも注目です。