不倫はなぜ「ダメなこと」なのか

今年(2017年)のニュースを賑わしたニュースといえば、不倫ではないでしょうか。大物芸能人や政治家などが週刊誌に取り上げられ、「不倫」という言葉を聞かない日はありませんでした。今回はこの不倫を歴史的な視点で考えてみたいと思います。

多くのメディアが不倫をネガティブに伝えていました。しかし日本では不倫をしたことで逮捕されることはありません。イスラム教を信仰するサウジアラビアなどでは、女性が不倫をした場合処刑されるケースもありますが、基本的に日本などの法治国家では不倫をしたことそれ自体に対して刑事罰が課せられることはありません。不倫発覚後、当事者間で裁判が行われ、離婚調停や慰謝料などの損害賠償が生じる可能性はありますが。このように考えると、不倫は「倫理(宗教)的」にダメなことになります。では、なぜ不倫は倫理(宗教)的にダメなのでしょうか。

1.日本は元々一夫多妻制

日本の歴史をさかのぼると、戦国時代の武将たちは多くの妻を抱えて、子孫を残すためにたくさんの子どもを産んでいました。江戸時代でも大奥というドラマの題材にもなったシステムが存在し、日本は一夫多妻制を実質的に採用してきました。しかし幕末時代、欧州列強の侵略に対抗するため日本は尊王攘夷を放棄。長年日本を支えてきた天皇を中心とするシステムから欧米のシステムを取り入れた明治維新を行いました。ドイツ(当時はプロイセン)を参考にした日本帝国憲法、また太平洋戦争後GNQの管理下に置かれ、結局GNQがほとんどを作成した日本国憲法、どちらもヨーロッパの思想が反映されています。つまり日本は明治維新後からヨーロッパの思想を積極的に受容し、また結婚制度なども構築されてきました。では、ヨーロッパの結婚制度はどのように形成されたのでしょうか。少し歴史を見ていきましょう。

2.中世ヨーロッパは暗黒時代

ヨーロッパの歴史と聞くと、今まで世界史をリードしてきたイメージを持ちますが、中世ヨーロッパは暗黒時代と呼ばれ非常に苦しい時代でした。ローマ帝国(名前は聞いたことあると思います)滅亡後、ローマ帝国繁栄の礎であった地中海はイスラム勢力に支配され、ヨーロッパは深い森の中で自給自足の生活を強いられてきました。童話『赤ずきんちゃん』や『ヘンゼルとグレーテル』はこの時代を背景に作られたものです。この時代に直面した問題は深刻な食料不足です。

当たり前ですが、人間は食べ物がなくては生きていけません。マルサスの『人口論』には、食料は算術級数的にしか増加しないのに対して、人口は幾何級数的に増加するとあります。難しいのでざっくり言うと、人口は掛け算のようにすごい勢いで増えるけれど、食料(食料を作るための土地)は足し算でしか増やすことができない。ここからマルサスは、人口は絶えず食料増加の限界を超えて増加する傾向があり、社会で起こる貧困など多くの諸問題はこの人口増加に起因すると主張しました。

3.どうやって子どもを作らせないようにするか

そこでキリスト教会は人口の増加を防ぐために、厳格な産児制限をしました。つまり、宗教的な戒律で子どもを作らせないようにしたのです。そのひとつが現在多くの国が採用しているひとりの人としか結婚できない一妻一夫制です。またセックスをするときにも厳しい贖罪規定書というものがあります。例えば、セックスをしていい日は月曜、火曜、金曜日だけでキリスト教の行事イベントと重なった場合はしてはダメです。また夫婦で一緒にお風呂に入ってはいけない、裸も見てもいけない…など、これでもかと思うくらいNG項目が並び、当時のヨーロッパ社会がいかに人口の増加を恐れていたかが分かります。

4.結婚制度が現代の少子化を招いている

現代社会も基本的に中世ヨーロッパで確立された結婚制度を踏襲しています。しかし現代において先進諸国において食料不足という問題はありません。もちろん日本国内でも苦しい生活をしている方はいらっしゃいますが、それは分配の話で経済の問題であり、日本国内に食べ物がないということはありません。むしろ余るほどです。そして、現在の日本などの一妻一夫制を導入する先進諸国は深刻な少子高齢化時代に直面しています。日本でも天皇家の皇族不足が問題となり、天皇制の継続も危ぶまれています。

中世ヨーロッパの結婚制度は人口増加を防ぐ目的として出来たものであり、その制度を現代でも取り入れている以上、人口が増えることは考えづらい。では具体的にどういった制度がいいのか、一夫多妻制を導入すればいいのか、不倫を認めればいいのか、移民を受け入れるのか…とても難しい問題ですが、今の結婚制度は少子高齢化時代には合致していないことは確かです。

食料不足を背景にして人口を抑制するために出来た過去の結婚制度が、食料に溢れながらも人口減少に苦しむ現代社会に大きな影響を与えている事実はなんとも皮肉な話です。