中国を知る① 中国文明とは何か?
2018年の世界の動向を予想するにあたって、絶対に無視できない国は中国です。
緊迫する朝鮮半島の動向でカギを握っているのはもちろんですし、現在の世界経済を実質的に動かしているのも中国です。2018年に中国がどう動くかによって、今後の世界の方向性が決まります。また2019年には、中華人民共和国が建国されて70年になります。今回はその中国の歴史について考えていきたいと思います。
「中国」と聞いて思い浮かぶことは、日本など周辺国に対して強圧的な態度を取る国というイメージではないでしょうか。2018年現在、中華人民共和国は日本と尖閣諸島を、ベトナム・フィリピンなどと南沙諸島の領有権を争っています。これ以外にも、過去の中国は武力衝突を伴った領有権争いを数多く起こしています。
なぜ、中国はここまで周辺国ともめるのでしょうか。中国の他国に対する姿勢(対外政策)を理解するためには、中国史における「中華思想」と「近代の深い傷」を知る必要があります。
今回は「中華思想」と「近代の深い傷」を理解する前提条件として「中国文明」とはどういったもので、中国文明が世界にどういった影響を与えたのかについて考えたいと思います。
1.中国の恵まれた環境
世界最大の人口を誇る中国ですが、中国は古代から人口の多い地域でした。その理由は、二つの大河にありました。黄河地域はヒエ・アワ・キビといった穀物に恵まれ、長江流域の沼地は中国人のさまざまな工夫によって豊かな水田に変わりました。
黄河と長江は人々に豊かな恵みをもたらしたのです。特にコメは極めて高カロリーであり中国の膨大な人口を支えました。その高い農業生産力は中国に「読書階級」の形成を可能にしました。読書階級とは、豊富な食料によって農作業をせずに勉学に集中できた人々をいいます。彼らは経験を重ねて学んだ知識によって治水技術の指導・整備や農業経営にあたり、農業の効率性を上げていきました。
そして、その効率性の向上によって、その農業生産物を加工したり、流通させたりする工業や商業など、農業以外の仕事(産業)に従事する労働力の形成を可能にしました。こうして物々交換だけで生計をたてる人々「商人」が誕生しました。
2.昔は記録(情報)をどのように保存した?
商工業は、数の計算をする必要から、農業に比べて多くの記録(情報)を保存する必要がありました。そういった理由から古代中国では文字が多様されました。
そして次第に、木の板や竹の板に文字を書いて、それを編んで作った「木簡」や「竹簡」が記録媒体として使用されるようになりました。木や竹であれば、文字を間違えてもその部分だけを削ったり、または板を差し替えたりすればいいため、修正が容易でした。
まず、木の板を並べ文字を削っていきます。間違っている部分があればそこを削り、削った部分に板を添えて修正します。これが文章を手直しする「添削」の語源になります。文字を削った板を並び終えたら、紐で編んで集めます。これが「編集」の語源となります。
そして、紐で編んだ板を巻いて蔵書などに保存します。私たちが本や漫画を「1巻、2巻…」と呼ぶのはもともと文書は板の巻物(木簡や竹簡)として保存されていたからです。
しかし一方で、木や竹は重たくてかさばるため携帯に向かないなど不便な点もありました。この木簡や竹簡の携帯に向かないという欠点を解決したのが紙です。紙が生まれた背景には、中国社会の莫大な文書量をどのように解決するのかという動機がありました。
紙を作る技術(製紙法)の確立により文書の作成・管理がより容易になり、中国文明はさらに発展します。中国文明は世界を変えた羅針盤や火薬、印刷技術の三大発明に至りました。
中国文明のレベルは圧倒的でした。近隣諸国はこぞって留学生を中国に送り込み、中国文化を学びました。前回の記事「織田信長の革新性①当時の仏教勢力」においても、日本の留学僧が中国で仏教の教理を学ぶだけでなく、農業や建築技術、紙や醤油の作り方など実用的な技術を学び、日本に持ち込み、仏教勢力が莫大な利益を上げたことを確認しました。
3.なぜキリスト教は日本に来た?
少し話がそれますが、道具が歴史に与える影響力の大きさについて考えてみたいと思います。戦国時代にイエズス会が日本を訪れ、キリスト教の布教を行いました。
この背景には、ヨーロッパで起きた宗教改革が原因です。宗教改革とは「カトリック」というキリスト教の考え方を否定する運動で、ヨーロッパを中心に起きました。当時カトリックというキリスト教の考え方がヨーロッパを独占していたため、カトリックの教会内部では汚職など組織の腐敗が進んでいました。
この現状に対して、ドイツのマルティン・ルターがカトリック教会の批判を展開しました。ルターは、ラテン語で書かれた聖書を一般の庶民でも読めるようにドイツ語に訳し「これからはカトリック教会ではなく、聖書と直接向き合おう」と主張しました。
4.「知識の独占」は自らの権力を維持するため
カトリックは聖書の言語をラテン語に限定することによって、わざと庶民に聖書を読めないようにしました。庶民はカトリック教会が「聖書にはこう書いてあるから」と言えば、それを信じるしかありません。そのためカトリック教会はやりたい放題だったわけです。
教会は庶民に対して、倫理的、道徳的に問題のある免罪符(犯した罪を帳消しにすることのできるお札のようなもので、贖宥状とも言います)を販売し、莫大な利益を上げました。カトリックは、いわゆる「知識の独占」によって自らの権力を維持しようしました。
日本の仏教勢力も中国から学んだ最先端の「技術」を独占するために「座」を作り、莫大な利益を上げたことは前回の記事「織田信長の革新性①当時の仏教勢力」でも触れました。
5.宗教改革の成功の裏にはある道具の存在が
また、このようなカトリック批判はルターが最初ではありません。ルター以前にも、イギリスのウィクリフやチェコのフスがカトリックに対して反抗を起していますが、いずれも鎮圧され、どちらも火刑に処されました。ウィクリフの場合は、墓を掘り起こされ遺体が火あぶりにされました。
では、なぜルターの宗教改革は成功したのでしょうか。成功のカギはある道具にあります。
その道具とは「印刷機」です。ルターがドイツ語に訳した聖書が印刷機によって大量に印刷され、それが広く庶民に行き渡りました。そして、今までのカトリック教会のインチキぶりが明らかになったことでルターの運動は多くの人に支持されたのです。
彼らは「カトリックに抗議(プロテスト)する人々」という意味で「プロテスタント」と呼ばれます。
そのため、ヨーロッパで信者を失ったカトリック教会は、宗教改革に対抗(対抗宗教改革)し、ヨーロッパ以外の地域に進出して信者を獲得することを決めました。その役割を担ったのがイエズス会になります。
6.歴史の主人公は人間ではなく、道具?
中国で発明された製紙法(印刷術)が遠くヨーロッパに伝わり、宗教改革を引き起こし、その結果として、イエズス会によるカトリックの営業活動が日本に来て、日本の歴史に大きな影響を与えることになりました。ザビエルが日本に来るきっかけは印刷機だったのです。
歴史を大きく動かすトリガーの役割を果たすもののひとつは道具です。そして、その道具の起源を辿っていくと多くが中国に行き当たります。中国の三大発明である紙は印刷機の発明を、羅針盤はスペイン、ポルトガルによる大航海時代を導きました。火薬の発明は銃の開発に繋がり、フランス革命やアメリカ独立戦争を導くことになります。
フランス革命やアメリカ独立戦争が成功した背景には、銃という道具の存在が大きく関わっています。このことについては、また別の機会で触れたいと思います。
教科書を読むと、歴史の主人公はあくまでも人間で、人間が主体的に歴史を動かしているように感じます。しかし最近では、地球規模の気候変動や道具の発明など、人間を取り巻く環境が歴史に大きな影響を与えているとして、新しい視点で歴史を捉えようとする試みもあります。
それを踏まえて宗教改革の背景を知ると「人間は道具によって動かされているのではないか」とさえ感じます。ただ、携帯電話が人々の生活スタイルや思考などを大きく変化させている現状をみると、あながち大袈裟な表現ではないように感じます。今後、人工知能(AI)の発達によって私たち人間の仕事がなくなることが危惧されています。近い将来、AI(道具)が人間を「支配」する時代が来るかもしれません。
7.圧倒的な文明レベルからもたらされるプライド
再び中国に話を戻しましょう。今回は中国史における「中国文明」を確認してきました。中国は自らの高い文明レベルを背景として多くの国々が中国文化を模範としました。こうしてベトナム、朝鮮、日本など広域な中国文化圏が形成されていったのです。
「中国」「中華」とは世界の「中」心の国、世界の中心の「華」というはっきりとした自信とプライドからくるネーミングなのです。そして中国こそが「世界の中心である」という考え方を中華思想と言います。この考え方は後の時代にも脈々と受け継がれていくことになります。
ここまでは中国の文化や技術について述べてきましたが、次回はこうした圧倒的な文明レベルからもたらされる自信とプライドに基づいた中華思想からくる中国の他国との接し方(国際関係)を見ていきたいと思います。
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