歴史は仕事に使える① 坂本龍馬の体格による「営業力」
今回はいつもと趣向を変えて、「歴史は仕事に使える」という観点から、ある人物に焦点を当てて「営業力」と「交渉術」について考えてみたいと思います。私はビジネスについて専門的に勉強したわけではありませんが、歴史を勉強すると他人を分析し、それに基づいた行動を取ることができます。
例えば、この人は自分を中心に世界が動いていると考える「ナポレオン・タイプ」だから、この人には基本的におだてる言葉を掛けよう、といったように周りの人間のタイプを歴史の偉人に分類することで、ただでさえストレスがたまる職場の人間関係をスムーズにすることができます。歴史を学ぶことは身近なことにも使うことができます。
今回、取り上げる人物は坂本龍馬とレフ・トロツキーです。坂本龍馬はお馴染みだと思いますが、トロツキーは、ロシア革命を成功させて世界初の社会主義国家ソ連を作ったレーニンの部下です。今回はこの二人を取り上げ、龍馬からは「営業力」について、トロツキーは「交渉術」について考えていきたいと思います。
1.坂本龍馬の果たした意外な役割
坂本龍馬は当初、犬猿の仲であった薩摩藩・長州藩の中を取り持ち「薩長連合」の成立に関わり、倒幕を成功させ、後の大政奉還や明治政府の成立に影響を与えた人物です。好きな歴史的偉人ランキングでが常に上位にランクインしています。
倒幕が成功した要因の一つとしては、薩長連合軍と幕府軍では武器の性能に大きな差があったという事実があります。薩長連合軍は最新鋭の銃を「ある商人」から購入することに成功し、幕府軍を圧倒することができました。この「ある商人」の名前はトーマス・グラバーと言います。長崎にあるグラバー邸は観光地にもなっています。そして、このグラバーから最新鋭の銃を購入し、薩長連合軍に流したのも龍馬なのです。
2.トーマス・グラバーとは?
幕末時代、当時のグラバーは「ジャーディン・マセソン商会」の代理人でした。ジャーディン・マセソン商会といえば中国に麻薬(モルヒネ)を大量に売りつけ、アヘン戦争を引き起こしたことで有名です。利益のためならば武器や麻薬をも売りさばく、まさしく「死の商人」として恐れられていました。当時グラバーはジャーディン・マセソン商会の日本支社がある長崎にいました。
同じ時期に龍馬は日本初の株式会社といわれる亀山社中(のちの海援隊)を組織し、貿易・海運業を展開していました。現在の三菱商事や日本郵船の原型です。この時、龍馬は同じ長崎にいたグラバーから大量の銃(武器)を買い付けることに成功したのです。坂本龍馬がグラバーから買い付けた武器は薩摩や長州に流れ、倒幕を進める原動力になりました。グラバーからもたらされた最新鋭の武器が倒幕を成功させたといっても過言ではありません。この武器はどこから日本に流れてきたのでしょうか。
3.幕末時代とアメリカ南北戦争は同じ時代
日本が混乱していた幕末時代ですが、一方のアメリカでは南北戦争(1861年~1865年)が行われ混乱を極めていました。アメリカ南北戦争は奴隷解放などを争点に対立した北部と南部によるアメリカ合衆国最大の内戦です。南北戦争はアメリカで起きた大規模な内戦です。あまり知られていませんが、アメリカが関わった戦争で最悪の死者数を出したのが南北戦争になります。またアメリカ大統領リンカーンの「人民の人民による人民のための政治」というゲティスバーグの演説が有名です。一見、関係なさそうな日本とアメリカの繋がりですが実は意外な糸で繋がっています。
4.私たちが使っている道具はもともとは戦争のため
すでに先進工業国だったアメリカでの大戦争は、軍事技術を飛躍的に向上させました。例えば、弾丸を回転させながら発射するライフル銃です。旧式の銃はそのまま銃弾を発射するので、空気抵抗が多く、弾道も安定せず飛距離が伸びません。しかしライフル銃は銃弾を回転させながら発射するので、弾道も安定し飛距離も伸びるため、命中率・射程距離を飛躍的に向上させました。
南北戦争で新型のライフル銃が大量に生産された結果、南北戦争が終わった後、たくさんの銃が余ってしまいました。この在庫品を龍馬はグラバーから購入し、薩長連合軍に流したのです。幕府軍が使用する旧式の銃と、薩長連合軍が使用した新型の銃の性能差は歴然でした。
戦争は科学技術を大幅に飛躍させます。私たちが普段使っているあらゆる技術は、最初は戦争で用いられ、その後一般社会に転用されたものばかりです。電子レンジやインターネット、携帯電話などそもそもは戦争で用いられた道具です。
5.グラバーが坂本龍馬を選んだ意外な理由とは?
グラバーはなぜ坂本龍馬を取引相手として選んだのでしょうか。その理由としては、亀山社中が同じ長崎にあったため、または薩長連合を成功させた人物だから、龍馬を通せば薩摩と長州のどちらともスムーズな取引をすることができる、など様々な理由を上げることができると思います。しかし意外な理由として、龍馬の「身長」がグラバーとの交渉に大きな役割を果たしたという指摘があります。
商人は顧客との交渉のときはなるべく自分を大きく見せるというのが、一つの心理テクニックとして基本となっています。会社の営業職には背の高い人や太った人が優先的に選ばれます。一度の訪問でしっかりと顔を覚えてもらうためです。グラバーの身長に関しては詳しく分かりませんが、三菱財閥の基礎を築いた岩崎弥太郎とグラバーが一緒に写った写真があり、174cm と言われている岩崎よりかなり大きく180cmくらいはありそうです。
また身長以外にも、商人は顧客との交渉を自分の仕事部屋で行うことを基本的には好みます。その部屋では、商人は大きな椅子に座り、家具や装飾など豪華さを前面に出して交渉を行います。その理由は、大きさや豪華さがある種の恐怖感を顧客に与えて心理的に追い込み、自分にとって優位な条件を顧客から引き出すためです。グラバー邸を見に行けば分かりますが、室内の装飾はかなり豪華な印象を受けますし、丘の上に位置するグラバー邸からは長崎港など長崎の街を一望でき、圧倒的な印象を受けます。グラバーも交渉の際は必ず自宅(グラバー邸)を使用したと言われています。
6.龍馬もデカかった
グラバーという巨漢の雰囲気に負けず、龍馬が対等な取引相手としての関係をグラバーと築くことができたのは、龍馬もグラバーに負けないくらい身長が大きく、また物怖じしない龍馬の性格も重なりグラバーの信頼を勝ち取ることができたのではないか、という面白い指摘があります。
龍馬の身長は諸説ありますが、坂本龍馬記念館のHPよると、京都国立博物館には龍馬の紋服が所蔵されており、その紋服のサイズから龍馬の身長を推測すると、170cmより少し大きいくらいではないかと推測できるそうです。幕末時代の成年男子の平均身長が150cm台の時代に、龍馬は170cmを越えていたのですから、グラバーほどではないにしても、かなりの大柄だったと言えます。
やはり身長が高いということは、色々な場面で優位に働くのでしょうか。体格が歴史に大きな影響を与えることがあるとして、歴史的偉人の身長などの身体的特徴という意外な部分に着目する試みもあります。そういった観点から歴史を捉え直していこうとする試みは、私たちの好奇心を駆り立ててくれます。
次回はトロツキーを取り上げたいと思います。
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