フランス革命を成功させた意外な道具

前回の記事「中国を知る⑥ 中国の厳しい情報統制(2)」において、ヨーロッパの絶対王政の正統性を支える根拠として「王権神授説」という考え方を確認しました。国王の権利は神によって与えられたものである。よって国王は神以外の何人にも制限されることはないという理論でした。

こうした背景から、ヨーロッパでは厳格な身分制度が出来上がりました。ヨーロッパにおいて貧しい農民などの民衆が革命を起こして成功した事例は、フランス革命まで待たなければなりませんでした。では、なぜフランス革命は成功したのでしょうか。その理由をある「道具」に着目して見ていきたいと思います。

1.支配とは暴力

主権国家体制に基づく絶対王政の時代は、国王は「王権神授説」を主張して、王権は世襲制になります。また強固な身分制(貴族制)社会であり、職業選択の自由がなかったことを確認しました。

フランス革命以前の封建社会や絶対王政の時代に、権力(政治力)を持っていた人たちは「騎士(ナイト)」と呼ばれていました。馬に乗り武器(槍)を自由に使いこなすために、厳しい軍事訓練を受けた人たちでした。

軍事訓練を受けること、また馬や装備品(武器)を整えるにはお金もかかります。騎士たちはこの圧倒的な武力と財力を背景に、自分の支配地域を持ち、農民などから税金を巻き上げていました。こうした時代を「封建時代」といいます。

この中から徐々に力を付け、広大な領土を支配し、多くの騎士を束ねて国王に成り上がる者も現れました。これを「絶対王政(絶対主義)」と言います。当時の国王や貴族たちが騎士(戦士)階級と呼ばれる所以です。トランプのカードのキング(国王)が剣を持っているのは戦士階級のリーダーであることを表しています。

権力を獲得することは、圧倒的な暴力を所有できるかどうかなのです。

日本史で説明すると、騎士(ナイト)は武士であり、絶対王政とは「幕府」なのです。国王(将軍)とは多くの武士(騎士)を取りまとめる管理職(社長)のような立場になります。

2.国王に対抗できる暴力の獲得

そして「ある道具」の登場が、この絶対王政を打ち崩す要因となります。その道具とは「銃」です。銃の登場は、世界史において政治的にも、軍事的にも画期的な変化をもたらすことになります。

フランス革命を実行した民衆たちは、身分制社会の中で下層階級に位置する農民や商人たちが中心でした。今までは農民たちが反乱を起こしても、騎士階級である国王の圧倒的な武力を前に鎮圧されるだけでした。しかし銃の登場によって、国王や騎士が横暴を振るった時代も終わりを遂げることになります。

銃の登場は、フランス革命やアメリカ独立戦争などの市民革命を引き起こす要因となりました。下層階級の農民や商人たちが、圧倒的な武力を持つ国王に抵抗できた理由は、銃を手にしたからです。

銃によって農民などの庶民たちは国王に対抗できる力を初めて手に入れることができました。銃の扱い方は一度やり方を覚えれば誰でも使うことができます。今まで戦闘の経験のない農民であっても、子どもや女性でも使うことができます。銃は素人の戦争参加を可能にしたのです。

軍事訓練を受けてきた騎士も銃の前では無力でした。銃が市民革命を導き、民主主義を作ったのです。教科書ではラ・ファイエットが起草した「人権宣言」によって、王権神授説に基づく身分制社会が否定され、人間は等しく平等であることが主張されました。この宣言に多くの人が賛同し、このエネルギーが革命を成功させた。

このような美談でフランス革命は語られていますが、実際には、民衆が銃という権力に抵抗できる「暴力」を手に入れたことが理由です。

3.銃は日本史も変えた?

日本の戦国大名でいち早く銃を取り入れたのは、織田信長でした。「信長の革新性⑤徳川家康の改革」では信長の柔軟な人材登用を行ったことに触れました。信長は自国の領土(尾張)以外の国からも積極的に人材を受け入れました。いわば信長軍は「多国籍軍」のような状態でした。

この多国籍軍であることの問題点は、寄せ集め集団であることです。国の出身地によって言葉や戦い方(戦術)が違うことです。そのため兵士同士の意思疎通がスムーズにできないため、戦の際における兵士たちの統率性や迅速さを高めることができず、有効的な戦い方ができませんでした。

そのため信長は、どんな人間でも簡単に操作できる銃(鉄砲)を戦に用いて、それを戦術にも導入することで、意思疎通や戦術を簡略化することに成功しました。騎馬戦を得意とし、当時最強と言われていた武田軍に対して銃を用いた戦術で撃破した「長篠合戦」は有名です。銃弾のスピードの前には馬も敵いません。信長が強かった理由のひとつには、どの武将よりも早く銃(鉄砲)を用いた戦術を考案したことがあります。

そして信長が、イエズス会によるキリスト教の布教を容認した理由は、銃を使用するときに用いる火薬の原料である硝石をイエズス会から手に入れるためでした。イエズス会の布教活動と同時に、ポルトガル商人も日本に進出し、ヨーロッパの物品を取引していました。

硝石の輸入窓口は大阪の堺でした。豊臣秀吉が大阪城を建てる前、堺を支配していたのは浄土真宗の石山本願寺でした。本願寺は堺の商人(座)との繋がりを深め、関西近辺の硝石貿易を独占していたのです。

前回の記事「織田信長の革新性①当時の仏教勢力」では、戦国時代の仏教組織(寺社)は当時の最先端技術の輸入センターのような役割を果たしていたことに触れました。寺社はそうした技術を「特許料」として商人に売りさばき、莫大な利益を上げていました。宗教組織が宗教活動だけではなく経済活動にまで関わっていたのです。結果、物価は上昇し、庶民の生活を苦しめていたのです。

こうした背景を理解すると、なぜ信長は「楽市・楽座」という経済政策を行い、また延暦寺や本願寺といった宗教組織と対立したのか。その原因がはっきりと見えてきます。

4.銃がもたらした画期的な変化

フランス革命などの市民革命によって、国王が支配する身分制社会を、農民や商人などの下層階級が中心となって破壊し、国王の支配から権力(政治を行う権利)を勝ち取り、新しく「民主主義」社会が作られることになりました。

民主主義とは、国家の所有権が国王から民衆(国民)に移ることを意味し、国民(民衆)が国家の方向性を決めることになったのです。これを「国民国家」と言います。つまりは今の私たちが住む社会のことです。

以前の記事「フランス革命による徴兵制と近代教育の起源」によってフランス革命によって成立したフランス新政府は徴兵性を導入したことに触れました。なぜ徴兵制が可能になったのか考えると、銃を持たせればどんな人間(素人)でも立派な兵士になることができるからです。銃が徴兵制を可能にしました。

徴兵制という軍事面での変化は、政治的な側面にも影響を与えます。絶対主義の時代、戦争は国王のために行われました。しかし国民国家の場合は国民のために戦争が行われることになります。そのためには多くの国民を納得させるための口実(理由)が必要になります。

国民国家では国民に銃を持たせ、徴兵制によって強制的に戦争に参加させます。戦争の遂行には国民の理解が必要であるため、政府は「正義(理想)」を主張します。正義には絶対に「負け」が許されません。そのため、戦争はお互いが消耗し合い、もう続ける必要がなくなったとしても止めるわけにはいきません。

こうした背景で行われる戦争を「総力戦」と呼び、第一次、第二次世界大戦をもたらすことになります。総力戦は、ヨーロッパ諸国に深刻なダメージをもたらしました。世界のリーダーであった大英帝国(イギリス)は第二次世界大戦後、そのバトンをアメリカに譲ることになりました。

5. アメリカは十字軍?

2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ(9.11)を受け、その報復としてアメリカはアフガニスタンやイラクに軍事攻撃をしました。当時の大統領であったブッシュ大統領は「正義と野蛮の戦い」と主張し、自身の武力行使を正当化しました。さらにブッシュ大統領は「十字軍」という言葉まで持ち出しました。

十字軍とは13世紀に、キリスト教徒とイスラム教徒が聖地エルサレムの支配権をめぐって争われた戦争です。この十字軍は結果的にイスラム教徒が勝利し、エルサレムを支配することになり、キリスト側からすれば失敗に終わりました。

キリスト教(カトリック)のトップであったローマ教皇が率先して十字軍を提唱したため、その権威は失墜しました。そしてローマ教皇の権威の失墜は、このあとの絶対王政の確立や宗教改革に繋がることになります。

話を戻します。「9.11」とは一部のテロリストがイスラム教という宗教を隠れ蓑にし、利用して起こしたテロに過ぎません。「十字軍」になってしまうと、イスラム教徒は全員テロリストになってしまい、アメリカはイスラム諸国全体を敵に回すことになります。関係者からそう指摘されたブッシュ大統領は即座にその発言を取り消しました。

6.歴史を知らない指導者がもたらす末路

ブッシュ大統領はイラク戦争(2003年)に踏み切る際、イラクには「大量破壊兵器」があり、この兵器がアメリカの安全保障を脅かしていると主張しました。しかしイラクにそんなものがないことが明らかになると、イラクをサダム・フセインの独裁に苦しんでいる。よってイラクを民主化するという「正義」を持ち出し、イラク戦争を決行しました。

その結果として、旧フセイン政権で働いていたバース党の幹部がイスラム国を作ったことは、信長の革新性⑤徳川家康の改革」で説明させて頂きました。現在の中東の混乱を招いた原因にアメリカは大きく加担しているのです。

最近ではトランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都に認定しました。読書嫌いで、経営者という視点からしか物事を考えることのできないトランプは、エルサレムの歴史的な重要性を理解していないのでしょう。

歴史を学ぶと、歴史を知らない指導者が世界を混乱に導いた事例は枚挙にいとまがありません。歴史を知らないトランプ大統領がこのまま就任し続けることは、世界をさらに危険な状況を招くことになるのではないでしょうか。

そうだったのか!アメリカ (集英社文庫)
池上 彰
集英社
売り上げランキング: 49,428