文明発祥の条件とは?

今回は趣向を変えて、文明について考えてみたいと思います。なぜ私達は今のような社会(文明)を築いたのか、その起源を歴史的にたどっていくと、面白いほどにその理由や原因が分かってしまいます。そこが文明論の面白いところだと思います。

1.貨幣はなぜ誕生した?

例えば、貨幣(お金)はなぜ誕生したのでしょうか。とても単純ですが、少し説明させてください。貨幣の目的を一言でいうと「経済の効率化」です。

貨幣が誕生する前は、人類は物々交換をしていたと考えられています。山に住む人は山で採れる野菜を、海の人は魚をそれぞれ交換していました。しかし物々交換のデメリットは持ち運びが面倒だということ、そして保存がきかないことです。これを解消するために、持ち運びが便利で、腐らない貨幣を人類は発明したとされています。

そして現代では、貨幣も面倒だということでクレジットカードが開発され、最近では仮想通貨と呼ばれるビットコインが話題になっています。

こうした仮想通貨の目的について、私はあまり分からないのですが、仮想通貨の目的は、全世界共通の通貨を誕生させることではないか、という話は聞いたことがあります。アルゼンチンやイランなどでは実際の決済通貨としてすでに使われているようです。

2.ビットコイン(仮想通貨)の目的

現在ドルや円、ユーロなど地域によって異なる通貨が使われています。ドルと円の交換レートも毎日変化し、交換する際には多くの手数料がかかります。

仮想通貨の目的は、全世界の人々がビットコイン(共通の通貨)を使うようになれば、ドルと円を交換する面倒な作業が必要がなくなり、もっと経済が効率的になり、活発になるのではないか、こういった発想が仮想通貨にあるのではないかと言われています。

貨幣は「経済の効率化」を背景として発展してきました。「全世界共通の通貨」を誕生させ、経済の効率化を図るという仮想通貨の目的もあながち間違っているとは思えません。しかし、あくまでも噂レベルの話ですので、こういった考え方もあるのかという程度で留めてほしいと思います。

3.文明の定義とは?

前置きが長くなってしまいました。

今回は文明論を考える一歩して「文明とは何か」、そして「なぜ文明は誕生したのか」。こういった観点から考えていきたいと思います。

人類の歴史をさかのぼると、人類の生活基盤とは最初、狩猟・採集で食料を獲得して生計を立てる「獲得経済」と呼ばれるものでした。日本でいうと今から1万5000年ほど前から始まったとされる「縄文時代」が当てはまります。

今の私たちのように農業や養殖のように食料を生産することはしなかったため、集落(村)を築くことはできず、周辺の食料を食べつくすと新しい場所に移動して、新たな場所でまた生活基盤を築きます。

文明は、人類が文字を開発し、使用することによって始まるとされています。

しかし縄文時代のような狩猟採集していた時代は、他者とのコミュニケーションとしての話し言葉はあったとしても、そうした言葉を書き留めたり、記録するような文字はありませんでした。むしろ生活上、文字は必要なかったのです。

しかし、今から5000年ほど前から、世界各地で文明が誕生します。人類の生活基盤は、狩猟採集という獲得経済から農業などを行う「生産経済」に移行しました。常に「移動」し、食料を探し回るのではなく、一つの場所に留まり(定住し)、農業などによって食料を生産するという、大きな転換を人類は図ったのです。

4.定住のきっけかは?

つまり文明は人類が定住し、都市が形成されることによって始まります。「定住」という生活スタイルを選択し、その生活の必要性から文字が開発されたのです。

人類が「移動」から「定住」に切り替えた動機はどのようなものだったのでしょうか。人は現状に満足していたら、大きな変化を望みません。そう考えると、人類を取り巻く環境に大きな変化(危機)が起きたことが考えられます。それは何なのでしょうか。

その変化とは、地球全体の「乾燥化」にあるというのが定説になりつつあります。実際に、前5000年前頃から、アフリカの北部から中東、ゴビ砂漠を通って、中国に至るラインで、乾燥化が始まったそうです。このラインを見ていくと、エジプト文明(アフリカ北部)、メソポタミア文明(中東)、ゴビ砂漠(インダス文明)、中国(黄河文明)、とまさに四大文明が始まった場所と重なるのです。

乾燥化によって食料が減り、獲得経済が成り立たなくなったことが、文明誕生のきっかけになりました。また食料と同時に、「水」という人間にとって必要不可欠な資源が減り、人類が住むことができる場所(環境)が減少してしまいました。

人類は水を求め、水資源が豊富な場所に集中することになり、その場所に定住します。これが都市の誕生につながります。つまり環境的に恵まれなくなったため、人は一つの場所に集中し、定住し、都市を形成することによって、文明が誕生することになるのです。

では、なぜ都市の誕生が文明の誕生に繋がるのでしょうか。

5.貴重な資源をどう扱うか?

一つの場所に集中した多くの人々は水を求めるため、水は貴重な資源となり、人は水を求めて争うようになります。しかし争ってばかりはいられませんから、争いを避けるため、貴重な水資源をどのように効率良く活用し、多くの人々と共有し合うのかという課題が出てきます。

貴重な水をどのように活用するのかという動機から、灌漑などの水活用システムが考案され、「農業」という新しい食料生産システムに繋がりました。そして、こうした灌漑や農業の技術を他の人々に伝え、共有し合うためにはマニュアル(説明書)、つまり文字が必要になります。こうした背景から文字が生まれ、使用されることになりました。

6.「分業化」と階級の誕生

また農業が誕生すると、農業によって出来た食料を他の人に売ろうという考えが生まれてきます。そこで農業をする人(農家)から食料を買い、違う場所に持っていって販売する人、つまり「商人」が誕生します。都市の中で色々な職業が誕生します。これを「分業化」と言います。

こうした分業化による取引の中から「貨幣」が生まれ、貨幣を持つものと持たない人が生まれ、貧富の格差が生まれます。こういう格差によってできるのが階級です。こうした階級の上に属する人々が政治力を持ち、都市を支配し、都市を管理・運営するようになります。

「目には目を、歯には歯を」で有名なハンムラビ法典ですが、この石碑によって、都市に住む人々の間に階級が生まれ、支配階級の人々が法律を作り、社会を動かしていることが明確に表現されています。

7.日本で文明が誕生しなかった理由

このように文明が誕生する背景を見てくると、なぜ日本では文明が誕生しなかったのか分かります。日本は水が豊かすぎて、水活用システムを考える必要性がなく、農業をする必要もなかったのです。日本は水資源が豊富で、自然環境に恵まれ、世界各地で起きた5000年前の乾燥化の影響もさほど受けませんでした。

日本で農業が始まったのは今から2500年前だと言われています、中国や朝鮮半島などの大陸からやってきた人々が稲作などの農業を伝えたことになっています。この時代を「弥生時代」と言います。

なぜ彼らは、海を越えるというリスクの高い選択をし、日本に来たのでしょうか。中国では5000年前、黄河文明が発生しました。中国各地で都市が発生し、都市間の争いが続発する戦乱の時代でした。うした戦乱から逃れた人々が海を渡り、日本にたどり着いたと考えられます。そして、日本にたどり着いた弥生人が稲作などの大陸の技術を縄文人に伝えたことになります。

天皇の儀式の一つに「新嘗(にいなめ)祭」というものがあります。稲の収穫を祝い、次の年の豊穣を祈るものです。この儀式から考えられることは、天皇の祖先とは大陸から稲作などの技術を持って渡ってきた弥生人ではないか、という説が有力となっています。

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