日本相撲協会の組織と上位を選ぶ仕組みとは

相撲大事典 第四版 | 金指基 原著, 公益財団法人日本相撲協会 |本 | 通販 | Amazon

日本相撲協会とはどのような組織か

2か月に1回、奇数月に必ず開催される大相撲の興行を取り仕切っている組織が日本相撲協会という組織で、主に現役を引退した力士の一部によって構成されています。ちなみに英語では「Japan Sumo Association」や略称のJSAが用いられます。

日本相撲協会のルーツは江戸時代まで遡ります。その当時、勧進相撲と呼ばれて、お寺や神社を新たに作ったり、移転したりするのに必要なお金を集めるために相撲が開催されていました。この勧進相撲を運営していた組織が東京のほかに、大阪や京都などの中心都市に存在し、その中で大正時代の末に作られた東京大角力協会と呼ばれている組織が結果として中心的なものになり、時代が昭和に変わって、すぐに1本化され現在の形になりました。

直近では4年前に公益財団法人の指定を受けたことにより、外部から役員を受け入れたり、意見を評議するなどの評議員に親方が就任する際に、年寄を退職して本名として表記したりするなど新たなルールが加わって現在に至ります。

元力士と裏方で構成される日本相撲協会

元力士は年寄名跡と呼ばれる襲名権を取得することによって親方として相撲部屋に所属して後進の指導に関わる傍ら、日本相撲協会の職員の1人として生活指導や警備などの任務を熟すことができるようになります。この年寄名跡を得るためには最低十両以上の地位、即ち関取を通算で5年弱以上務める必要があり、親方は元関取ということになります。ちなみに、この年寄名跡は全部で105個しかなく、条件を満たしても取得できないと協会に残ることができず、関取でも現役を引退した後は、ちゃんこ屋として独立したり、一般企業に就職したりして第2の人生をスタートさせるケースが珍しくありません。

また、親方以外にも日本相撲協会の職員としては、土俵で対戦する力士を合わせるなどの役割がある行司、土俵を作るなどの役割がある呼出し、力士の紙を結う仕事の床山があり、これらは裏方とも呼ばれています。また、相撲教習所と呼ばれる入門し立ての力士が学ぶ施設で指導することが多い若者頭や、柄杓などの用具の準備作業を行う世話人も該当し、いずれも定員がありますが、若者頭や世話人の場合、最高位が幕下など、先述した親方よりも条件は少し緩めとなっています。

トップは師匠を務めた元力士から選ばれることが多い

このように元力士と裏方で構成される日本相撲協会のトップは理事長と呼ばれており、この理事長は後述する理事の中から選出される仕組みになっています。ただし、この理事は元力士から選ばれた人を指し、外部から選ばれた人は該当しません。さらに、初代を除いて正式に理事長を務めた11人は全て相撲部屋の師匠を経験しているという特徴があります。ちなみに初代の理事長は陸軍の中将でした。

ところで、初場所が終わった後の話題として度々相撲協会の理事長が誰になるのかということが出ることがあります。例えば、今から丁度30年前には、昭和30年代前半に角界の1時代である栃若時代を築いた第44代横綱栃錦関の春日野親方から、第45代横綱若乃花関の二子山親方への交代は話題になったほどです。これは初場所後に理事を入れ替える選挙が2年に1度行われ、その中から選ばれた新理事長は翌21日から2年間務めることが慣例になっているためと考えられます。ただし不祥事や病気などによって途中で辞任するケースもあり、その場合は、後任の理事長を理事の中から選んだり、代行の理事長を置いたりして対応することになります。現在、理事長を務めているのは第61代横綱北勝海関の八角親方で、前理事長だった第55代横綱北の湖関が亡くなったことによる代行を経て2年ほど前に正式に就任して現在に至ります。

2月に実施された理事選挙の結果を纏めると

先述した日本相撲協会における理事の交代は西暦で偶数の年に行われるため、今年がそれに該当します。そして今年の場合、理事の定員10人に対し、11人が立候補したことにより、平成28年の前回と同様に選挙によって選出される仕組みになりました。

今回立候補した11人は、いずれも部屋持ち親方で、所謂、部屋の師匠を務めているか、過去に経験した元力士であるという特徴があります。この選挙結果を得票数が多い順に列挙すると、最多の12票を獲得したのが、元前頭芳野嶺関が師匠を務めていた頃の熊ヶ谷部屋を中心に所属した元関脇高望山関の高島親方で、過去に高島部屋の師匠を18年間務めていましたが、現在は元前頭竹葉山関が師匠を務めている宮城野部屋で部屋付き親方として後進の指導に当たっています。ちなみに、高島親方は前回の理事選挙にも立候補しましたが落選しており、雪辱を果たしたことになります。

11票を獲得したのが、第50代横綱佐田の山関が師匠を務めていた頃の出羽海部屋出身の元小結両国関の境川親方、第47代横綱柏戸関が師匠を務めていた鏡山部屋に所属した元関脇多賀龍関の鏡山親方、第52代横綱北の富士関が師匠を務めていた九重部屋所属で現在理事長を務めている八角親方の3人でした。

10票を獲得したのが、第53代横綱琴櫻関が師匠を務めていた佐渡ヶ嶽部屋所属だった元大関琴風関の尾車親方と元大関魁傑関が師匠を務めていた放駒部屋で第62代横綱に上り詰めた元大乃国関の芝田山親方の2人で、芝田山親方は理事に初当選となりました。

9票を獲得したのが、第44代横綱栃錦関が師匠を務めたころの春日野部屋に所属した元関脇栃乃和歌関の春日野親方と境川親方が入門した頃に出羽海部屋所属だった元前頭小城ノ花関の出羽海親方の2人でした。

8票を獲得したのは、北の湖部屋に所属した元前頭巌雄関の山響親方と元大関大麒麟関が師匠を務めていた押尾川部屋所属だった元関脇益荒雄関の阿武松親方の2人で、阿武松親方は初当選となりました。

なお、元大関貴ノ花関が師匠を務めていた藤島部屋、後の二子山部屋所属として第65代横綱に昇進した元貴乃花関の、貴乃花親方は2票に留まり、落選となりました。

今回の選挙結果で当選した理事を現在、存在する6つの一門別に纏めると伊勢ヶ濱一門が高島親方1人、出羽海一門が出羽海親方を初めとする4人、時津風一門が鏡山親方1人、高砂一門も八角親方1人、二所ノ関一門が尾車親方など2人、貴乃花一門は阿武松親方1人となります。この割合は前回と同じだったことから、初当選した3人は同じ一門から交代した前理事がいたことになります。

貴乃花一門のケースは貴乃花親方から阿武松親方に交代する形になりますが、他の2例としては、高島親方は元大関旭國関が師匠を務めていた大島部屋所属で第63代横綱まで昇進した元旭富士関の伊勢ヶ濱親方と、芝田山親方は第45代横綱若乃花関が師匠を務めていた二子山部屋所属だった元大関若嶋津関の二所ノ関親方と交代したと考えられ、理由としては交代した親方の体調面と辞任によるものであると考えられます。

公益財団法人になったことで2か月遅れの新体制スタートに

先述した通り、日本相撲協会がこれまでの財団法人から、公益財団法人に変わったことによって理事が決まる仕組みも変わっています。具体的には、これまでのケースだと、理事選挙において新理事が決まった段階から確定され、理事長もその中から近い日程で選ばれることになり、21日から新しい理事長や理事の体制の下で大相撲トーナメントや春場所などの興行が行われるようになっていました。

しかし、組織が変わったことにより、今回選出された理事はあくまでも候補の扱いとなり、春場所後に行われ、外部の委員が多い評議委員会で承認されてから、正式に確定する流れに変更されました。理事長を選ぶ仕組みはこれまでと変わらないことから、理事長選挙が行われるのは、この評議委員会の直後になると考えられ、現状では、それが開催される春場所千秋楽翌日の326日になる可能性が高いと考えられます。ちなみに、スポーツ紙などの一部メディアでは八角親方の再選が有力視されています。

まとめ

このように、日本相撲協会とは、大相撲に関わってきた力士や裏方によって構成されている組織であり、公益財団法人になったことにより理事以上の上位職の新体制が外部中心の組織の承認という1段階を経てからスタートすることから遅れている可能性が高いと言えます。